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嫉妬 5

「……ならば黄金の聖衣をまとう者として、どのような時にもあの方をガッカリさせる様な事だけはしないつもりだ。 これは歴代の黄金聖闘士たちへの礼儀でもあるからな。
こういう返事になってしまったが、良いか?」
アルデバランの返事に、アイアコスは厳しい表情で遠くを見ていた。
(この身に魔星を持ち、冥闘士となった俺たちには先代なんぞいないが……)
突如、脳裏にエリスの言葉が蘇る。
(冥衣の力が人間を蝕む様……)
魔星を持つ自分たちが冥衣に蝕まれると言うのは、どういう事なのだろうか。
(俺は冥衣に支配されるのか?)
それとも既に支配されているのか?
以前、自分たちは酷い方法でユリティースを拘束した。
結果として竪琴の名手は冥界に居続ける事になったが、本当にあれはどうしようにもない事だったのだろうか?
だが、どうしようにも無かったと言うのなら、何故自分はこんなにも割り切れない気持ちを抱かねばならないのだろうか。
(確かに死者が蘇ると言う例は作るべきではない。
アスクレーピオスが英雄たちを復活させまくった時は、冥界が大混乱を起した)
不意に思い出した名前に、アイアコスはドキリとする。
(あれは……。蛇の……。蛇……)
「どうかしたのか?」
アルデバランに話しかけられて、アイアコスは我に返る。
「気分でも悪いのか?」
「いや、大丈夫だ」
アイアコスは軽く手を振る。
光は7粒めが消え、8粒めが輝きだそうとしていた。

だが、混沌の世界を移動していた二人は、ある事がきっかけで自分たちがかなり危険な状態にある事に気がついた。
それはアルデバランが道を踏み外したのに、何事もなく彼は元の位置に戻されていたのだ。
「どうやら逆に捕らわれていたらしいな」
アイアコスの言葉にアルデバランは頷く。 これではいつまでたっても外には出られない。
そして光は10粒めが終わろうとしていた。
「……牡牛座。その明かりを消してみろ」
アイアコスの言葉にアルデバランは驚く。
「決定権は牡牛座にある。
だが、その明かりが全てを打ち消している可能性がある。
ここへの入り口が闇の中にあったのなら、出口もまた闇の中なのかもしれない」
アルデバランはしばらく麦穂をみると、意を決して残りの二つの粒を取った。
そしてアイアコスにそのうちの一つを渡す。
「牡牛座!」
「これから何が起こるかは判らない。 冥妃の不興を買いたくなければ、是非返しにきてくれ」
アルデバランは可笑しそうに笑った。
「だったら、牡牛座も無事でいろ!
他の奴らでは、返したところで只の粒だと思ってゴミにしかねないぞ!」
その言葉にアルデバランは心当たりがあって沈黙してしまう。
アイアコスも相手のそういう反応に不安を感じてしまった。
そして次の瞬間、10粒めの明かりはゆっくりと消え、全ては闇に包まれた。