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嫉妬 2

ところがその通路を曲がった途端、目の前に飛び込んできた光景に彼女は驚き冷静さを欠いてしまう。
「ミロ!」
黄金の鎧をまとう青年が岩の上に横たわっているのである。
下半身は泥らしきものに浸かっており、岩から転がり落ちれば彼はそのまま呑み込まれてしまう。
彼女は慌てて蠍座の黄金聖闘士に駆け寄る。
だが、彼女がその泥だと思っているものに足を踏み入れた時、それらは正体を現した。
「あっ!」
ただの泥だと思っていたものは、いきなり柱のようにそそり立ち、シャイナに襲いかかったのである。
(罠か!)
謎の石像と同じように、自分の技はこの敵には通用しない。
その時、聞いたこともない声が彼女の耳に届く。それは人の声でない事だけは、判った。
声は恨みがましそうに言う。

アスクレーピオスを捕らえて、地上への復活を果たす……。

シャイナは神話で伝えられている蛇使い座の名をいきなり聞かされて、驚いた。
その隙を付いて、謎の敵はシャイナの足を捕らえる。


「あれは逆賊の弟です」
誰かが一人の少年を指さして言う。
(アイオリアが……?)
新しく獅子座の黄金聖衣の所有者となった少年がそう呼ばれるという事は、彼の兄である射手座の黄金聖闘士であるアイオロスが逆賊という事になる。
(アイオロスが?そんなバカな……)
当時、蠍座の黄金聖闘士になったばかりのミロには、周囲の大人の言う事が信じられなかった。
射手座の黄金聖闘士は、それこそ誰よりも優しい小宇宙の持ち主だった。
しかし、周囲の大人たちは少年だったミロの困惑を無視して、アイオロスのしでかしたという事を話し始める。
そのうち大人の一人がミロに対して、こう言った。

蠍座は傲慢なる狩人を滅ぼす為に、女神ガイアが遣わしたもの。
その力で腐りきった聖域を作り替えるべきです。


その言葉にミロは自分の目の前にいる大人が、聖域の人間ではない事に気がついた。
「貴様たちは何者だ!」
先程まで自分は黄金聖闘士になりたての少年だったと思っていた彼だったが、一瞬にして今の自分が置かれている状況を理解する。
邪悪に支配されているサガと闘っていた最中に、自分は地底に呑み込まれてしまったのである。
今自分がいるところが何処なのかは判らないが、目の前にいる者たちが敵である事は判った。