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罪状 5

聖域に着くとヘレネの亡骸は、何処かに持って行かれた。
既にクリュタイムネストラーも人知れず埋葬したと聞かされる。
何処へ持って行かれたのか。誰が埋葬したのか。
誰も知らないと言われた。
激しい怒りで目の前が真っ暗になる。

聖域はクリュタイムネストラーとヘレネの痕跡を消す事にしたのである。
人間のみでそのような判断を下すとは到底思えない。
天上界や他の神々から、何かを吹き込まれたに違いない。

罰を与えずに済ますには、罪そのものを消す。
女神パラスに対して神々がした事を、今度は人間が自分たちに行ったのである。
だが、今度は絶対に罪を消させはしない。
その為にはテーセウスとペイリトオスをアレイオス・パゴスの法廷に連れて行き、正義を正さなくてはならない。
だが、彼らは冥府から二度と戻って来なかった。
後日、冥王が彼らを捕らえて、深淵の闇に閉じ込めたと聞かされた。
聖域は自分にこの事件は忘れろと言う。
自分がアテナの聖闘士である事を忘れるなと言う。

それは自分にとって心を潰せと言っているのも同然だった。

そしてその異常とも言える事態の歪みは、母神とスパルタの養父母が被ってしまった。
無理矢理真実を聞き出した彼女たち。
最愛の娘たちを失った女神とその依代である養母は、怒りのあまり完璧に同調してしまう。
養母は叫ぶ。聖域も神々も絶対に許さないと……。
母神は考える。
彼らは許さない。
だが、その怒りを未来まで引き継いで、何も知らない人間たちを罰するのは間違っている。
当事者たちは既に冥界へ降りてしまったのだから……。

しかし、スパルタの王妃は女神の内なる怒りを抱えて、残酷な復讐の下準備をしてくれた。
ゆえに女神も人間の遣り切れない哀しみを抱えて復讐を実行する。
そして女神は依代が居なくなった今でも、その怒りと哀しみを依代の分まで背負っていた。