クリュタイムネストラー殺害とヘレネ誘拐という聖域でも未曽有の出来事は、すぐさま海世界のカストールにも伝えられた。
実妹の亡骸を抱いて呆然としている兄。詫びの言葉も出ない。 だが、逃亡した二人の英雄の行き先が判り、ヘレネ救出の準備が出来るや否や、カストールは立ち上がった。
今は哀しみに浸ってはいられない。 スパルタの王女を誘拐した男たちを捕らえねばならない。 片方は女神アテナが守護をした英雄だからこそ、その罪を償って英雄の務めを全うしてもらわねば、聖域の信頼と女神アテナの信仰は地に落ちてしまう。
海皇より許可を得て、カストールは一人の兄としてヘレネ奪還に参加する。
しかし、ようやっと捜し当てた建物の一室で、大事な妹はその身体を弱らせていた。
半身とも言うべきクリュタイムネストラーの死が、ヘレネから生きる力を奪ったのである。 自分たちに対して謝りつづけるヘレネ。
ごめんなさい。
それが妹の最期の言葉だった。 |