INDEX

罪状 2

双子座の黄金聖闘士となってから聖域で暮らしている自分の所に、ある時二人の妹たちがやって来た。
『お兄様。お疲れさまです』
二人の妹のうち片方が優しい笑みを浮かべる。
『今日はお兄様の為に、料理を作ってみました』
もう一人の妹が楽しそうに自分の手を取る。
本当なら妹達は兄のカストールにも会いたいだろう。

だが、カストールは天上界と海世界の密約により、海世界の守護の任務が与えられ、今は海世界にいた。
これは女神アテナと共にその場にいたのに女神パラスの事故を防げなかったので、その責任を問われたのだ
が、もう誰も女神パラスの名は口にしない。
表向きは海世界の防御面を強化したいので、是非にと請われた形になっている。
伯母であり女神パラスの教育係であった女神エリスは沈黙を守っている。
海の至宝は永遠に抹殺されてしまったのだ。
それゆえにカストールは断る事も出来た。罪は存在しないのだから、罰もありえない。
しかし、責任感の強い兄は海将軍となりシードラゴンの鱗衣をまとう事を決意した。
それが女神アテナと海世界の決裂を回避する方法だったから。
『決裂する事は、女神アテナから永遠に女神パラスを奪う事になる。』
カストールはそう言って海世界へと行ってしまった。

海世界にはカストールが秘めた想いを寄せる女神がいる。
だが、もう昔のようになる事は有り得ない。
女神は可愛がっていた至宝を失って、心を壊してしまったのだから。

妹達はカストールとの別れを嫌がったが、最後には我慢してくれた。
だからこそ自分は兄の分まで、妹達に愛情を注いでいた。
しっかり者で芯の強いクリュタイムネストラー。
誰よりも優しいヘレネ。
自慢の妹達だった。
だが、黄金聖闘士となってからの忙しい日々の中で、彼女たちを取り巻く情勢が険悪になってきた事に、迂闊にも気付くのが遅かった。

日に日に美しく成長していく二人の妹。
自分たちが神の闘士になってしまった為に、当時の強国スパルタの王位は場合によってはクリュタイムネストラーの夫となる人物に与えられる事になった。
そしてそれが他国に知られるようになると、クリュタイムネストラーのみならずヘレネにも大勢の求婚者が現れるようになった。
男たちの目的は妹達なのか、自分たちの持つディオスクーロイの呼び名に近寄ってきたのかは、もう定かではない。
結局両方だったのだろう。

この状態に危機感を持った養父母は一時的に妹達を自分の元へ連れてきた。
それはスパルタの城よりも聖域の方が、神の闘士がいる分安全だろうという判断だった。
目的は加熱する二人の妹の争奪戦に、冷却期間を置くの事。
だが、伏兵は他にいた。


ポリュデウケースは暗黒の白羊宮へ入る。
(この気配は山羊座……。
太古の神族の最後の血筋と滅びる事の出来ない者の対決か。
面白い……)
彼は少しだけ歩調を早めた。