『ケイローンの業(わざ)を継ぐ者……。やはりあの時の侵入者はお前だったのか』
彼はアイオロスの事を睨み付ける。 「……」 しかし、アイオロスは何も言わない。 『射手座。あの時お前をネメシスのもとへ連れていったのはケイローンか?』
やはり彼は答えない。 ただ、目の前の青年を見ていた。 『答えろ』 青年の目が、心なしかつり上がる。 だが、アイオロスはきっぱりと拒絶をする。
「……その問いには答えられません」 『何っ!』 「私はあなたの問いには答えない。 唯一沈黙によってのみ、意思表示をするだけです」 アイオロスはそれだけを言うと、目を伏せて目の前の青年から視線を逸らす。
相手はしばらく射手座の黄金聖闘士を見た後、静かに口を開いた。 『……あの後、ネメシスは穏やかな表情で眠る様になった。 何があったのかは知らないが、妹を悪夢から開放してくれた事は一応感謝する』
青年は一言そう告げると、アイオロスの前から立ち去った。 (……そうか、彼は女神ネメシスの兄君だったのか……) あの時、暗闇の中で出会った白く大きな翼を持つ女神は、辛そうな表情で眠っていた。
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