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沈黙の賢者 4

『ケイローンの業(わざ)を継ぐ者……。やはりあの時の侵入者はお前だったのか』
彼はアイオロスの事を睨み付ける。
「……」
しかし、アイオロスは何も言わない。
『射手座。あの時お前をネメシスのもとへ連れていったのはケイローンか?』
やはり彼は答えない。 ただ、目の前の青年を見ていた。
『答えろ』
青年の目が、心なしかつり上がる。
だが、アイオロスはきっぱりと拒絶をする。
「……その問いには答えられません」
『何っ!』
「私はあなたの問いには答えない。 唯一沈黙によってのみ、意思表示をするだけです」
アイオロスはそれだけを言うと、目を伏せて目の前の青年から視線を逸らす。
相手はしばらく射手座の黄金聖闘士を見た後、静かに口を開いた。
『……あの後、ネメシスは穏やかな表情で眠る様になった。
何があったのかは知らないが、妹を悪夢から開放してくれた事は一応感謝する』
青年は一言そう告げると、アイオロスの前から立ち去った。
(……そうか、彼は女神ネメシスの兄君だったのか……)
あの時、暗闇の中で出会った白く大きな翼を持つ女神は、辛そうな表情で眠っていた。


暗闇を歩いていたヒュプノスの前にタナトスが立つ。
『あれはいったい何だ!』
タナトスの表情には不快感が現れていた。
『何がだ?』
『黄金聖闘士がネメシスの所にやって来ただと!
何故そんな重要な事を、オレに言わないんだ!!』
今にもアイオロスを攻撃しに行きそうな様子のタナトスに、ヒュプノスは片手で兄弟の腕を掴む。
『何をする。ヒュプノス!』
『あの男を呼んだのはネメシスだ』
その言葉にタナトスは驚き、動きを止めた。
『……』
『本当ならネメシスは聖域を罰しなくてはならない。
人間たちは我々に対して思い上がった行為をしたのだからな……』
銀髪の青年神はこの時、自分を掴んでいる兄弟の手に力がこもったのを知り、その手を振り払った。