彼は闇の中に舞い降りた白い翼を見て、思わず立ち上がろうとした。 しかし足枷の為に、立ち上がるどころか動かす事すらままならない。彼は鳥をじっと見つめる。
鳥はアイオロスの前にいるが、それ以上は近付かない。 「お久しぶりです。女神ネメシス」 アイオロスは懐かしそうな笑みを浮かべる。 すると鳥は一度後ろを振り返った後、幻の様に掻き消えてしまった。
彼は特に引き止めもせずに、鳥が振り返った方を見た。 そこには暗い色のマントを頭から被っている者が立っていた。
絵梨衣は黄金の鎧をまとう青年を見て足を止める。
(誰?聖域の人??) しかし、彼女の心に闇に潜むモノと言うタナトスの言葉が蘇り、迂闊に近づけない。 (でも……) 白い鳥は居なくなってしまった。
絵梨衣は白い鳥がここへ案内したのかもしれないと思い、恐る恐る近付いた。
「あの……」 その声にアイオロスは、謎の存在が若い女性である事に気がつく。
だが、彼女はその背後にいきなり現れた誰かに肩を掴まれた。 「!」 アイオロスも驚いて女性を助けようとしたが、自分は動く事が出来ない。
金色の髪の青年は静かに女性に話しかける。 『レダ、お前の白鳥は向こうにいた。 お前の事を探していたぞ』 彼は厳しい眼差しでアイオロスの事を見ながら、遠くを指さす。
彼女は一瞬戸惑ったような様子を見せた。 (レダだと……) アイオロスはその名に衝撃を受ける。 (ディオスクーロイたちの母親が何故?)
カストールの実母にしてポリュデウケースの養母であるレダ。 彼女の名を聞いて、アイオロスは表情が固くなった。 『早く行け』 青年が彼女に対して手をかざすと、マントの女性は煙の様にその場から消えてしまった。
そして残されたのは謎の青年と射手座の黄金聖闘士。 しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのは金色の髪の美しい青年だった。 |