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沈黙の賢者 1

闇が動く。
デスクィーン島の地下にある黒い空間に、黄金の光は舞い降りた。
「シュラ。悪いが俺では奴に逃げられる。
時間稼ぎはお前に任せるからな」
デスマスクの言葉にシュラは頷いた。
蟹座の黄金聖闘士の技は、直接人の魂を冥界の入り口まで運んでしまう。
ポリュデウケースがその技を利用して逃げてしまう事は十分に考えられた。
逆にテティスの事を知らせて相手を怒らせても、向こうが再戦相手を未来の黄金聖闘士に決めていた場合、彼らの負けは確実である。
そしてたった一つの切り札は有効に使わなくてはないらない。
(それにこの場所は、冥界と地上の空間の境界線が曖昧だ。 冥界波で紫龍を肉体ごと落とす事が出来たのだから、迂闊な使い方をすれば、捕らわれているアイツ等を落としかねない)
自分の技はこの場所に多大な影響を与える。
何が起こっても当然の事態なのだ。
その時、デスマスクは誰かが近くにいる様に思えた。
「おいシュラ。 俺は少しばかり隠れさせてもらうぞ」
「……判った」
デスマスクはシュラの頭を小突く。
「情に流されるな。今の奴はサガじゃない」
「……判っている……」
シュラは暗黒の白羊宮へ歩きだした。

『……』
忌まわしい亡者の声に、暗黒の金牛宮を出て白羊宮に向かっていたポリュデウケースは足を止めた。
いきなり話しかけられたので、一瞬彼は空耳かと疑う。
すると亡者はけたたましい声で笑った。
「タルタロスに落とされたと聞いていたが、どうやら嘘だったようだな」
彼の表情に怒りが色濃く出る。 先程の冷静さが嘘の様な様変わりだった。
亡者は言葉を続ける。
タルタロスを塞いでいた門はギガース(巨人族)たちによって壊された。
そして彼らは冥界を滅ぼし、地上に向かうつもりだと……。
(ギガースが!)
ポリュデウケースの顔色が変わる。神々の仇敵とも言うべきギガースたちが地上へ向かえば、聖闘士たちを総動員しても彼らを撃退出来るかどうか判らない。
しかし、彼は自分がそういう事を考えてしまった事に笑ってしまった。
「ギガースに滅ぼされるのであれば、オリュンポス神族はそれまでだったという事だ」
再び彼は歩き始める。
そして彼は亡者に告げる。
「待っていろ。 今度こそ我等兄弟の怒りをその身に受けてもらう」
しかし、亡者からの返事は無かった。