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続・美しき森 6

自分はどれほどこの場所を漂っているのか。
アイアコスはいい加減うんざりしていた。
(戦闘状態なら何かしらの手を打てるが、待つだけというのはどうも性に合わない……)
もともと先制攻撃を得意とするので、受け身というのは苦手。
彼は退屈になってくると、とにかく何らかのトラブルの発生を望んでしまう性格だった。
(ラダマンティスは秩序を重んじるから、喧嘩になるんだよなぁ……)
ちなみにミーノスはどんな騒ぎが起ころうと、気にしないタイプ。
彼が仲間たちの事を思い出していると、視野の端っこで何かしら光が一瞬だけ見えた。
(ようやく何かが起こったみたいだな!)
彼は嬉々として光の見えた方向に、方向転換した。


生暖かい風が冥界の大地を駆け抜ける。
地暴星サイクロプスのギガントは、その風を感じた時、何もない筈の荒野を見た。
「ギガント、どうしたんだ?」
ラダマンティスから冥界の様子を見てくるよう命令を受けているハーピーのバレンタインは彼の視線の方向を見る。
だが、そこにあるのはやはり一面の荒野。当然、生き物の姿はない。
冥界の全てを知っている筈なのに、その風は彼らにとって初めて感じる風だった。
危険・危険・危険……。
ギガントの脳裏に何かの映像が蘇る。
彼は思わず地面に膝をついて頭を抱えた。
「大丈夫か!」
バレンタインの声も彼には遠く聞こえる。

深淵の闇に突き落とされる自分。
ヒステリックに叫ぶ誰かと忌ま忌ましげに自分を見る男。
そして、自分に手を差し伸べる女性。

(パンドラ様!)
彼は差し伸べられた手を取る事を躊躇った。
冥王軍の総司令官である彼女は、自分たちを裏切ったと噂されている。
(冥王様の支配となれば、永遠の命が得られた筈……)
死は絶対的なものである。
そこから逃れられるというのに、女主人が逆らうとは考えられなかった。

『所詮、奴ラハ敵ダ』
何かが自分の中で囁く。
『うらのす ヤ くろのす ハ我等ヲ裏切ッタ。
何故、ぜうす ヤ はーです ガ味方ナドト思ウノダ』

声はますます自分の中で大きくなる。
『巨人族デアル以上、神々トハ相容レヌ……』
(やはり冥王様は、我々を……)
そう考えた途端、自分の中で何かが脈打つ。
『スデニ たるたろす ハ開カレタ……』
そして全身の血が逆流しているのかと思う程、怒りが沸き上がる。
(許さぬ!)
ギガントが怒りの形相で前を向いた時、彼の異変を感じ取ったバレンタインが、咄嗟に彼のことをぶん殴った。