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続・美しき森 5

双児宮で赤い光をまともに受けた後、アルデバランは自分がどこか別の場所に飛ばされた事を知った。
だが、この場所に存在する明かりといえば、自分の黄金聖衣しかない。
聖衣は自ら光を放ち、周囲を仄かに照らす。見回してみると様式は聖域とは違うが、やはり神殿のような印象を受ける。
ただ、判っているのは自分の右側が壁であるという事。
左側は闇に包まれており、ここが部屋なのか廊下なのかも判らなかった。

『老獪な手段に騙されるなよ』
(争いの女神がわざわざ忠告をしてくれたというのに、まんまと引っかかった事は反省しなくてはなるまい)
実際、あの白い煙が本当に天上界からの使者なのか判らないのだから……。
とにかく自分が今いる所が聖域ではないのなら、早く戻らなくてはならない。
「?」
その時、彼の目の前に何かがゆっくりと落ちてくる。
「麦の穂?」
彼は両手でその一本の麦穂を受け取る。
その時、彼の背後で音がした。
「……これは……」
今まで壁だった場所に出入り口が現れたのである。
(あそこから出ろと言う事か?)
彼は麦穂を持って行こうかどうか迷ったが、置いていくのも失礼と思って、持っていく事を決めた。

出入り口の外は、それこそ闇だった。 聖衣の光もここでは通用しない。
だが、彼は恐れずに一歩を踏み出した時、手に持っていた麦穂の粒の一つが明かりを放った。
そのオレンジ色の光が闇を照らす。
そこには細い道が一本だけあった。
「これは有り難い。 大地と冥界の女神よ。感謝致します」
アルデバランは昔聞いた話を思い出し、素直に感謝の意を告げる。
麦穂は大地の女神デメテルを象徴する植物である。そしてその娘であり冥界の女王であるペルセポネをも象徴するという。
彼はその話を先輩の黄金聖闘士から聞いた事があった。
それ以上に今自分たちは冥妃たちを救う為に行動しているのである。
冥王は仇敵かもしれないが、冥妃まで仇とする必要はない。
(アフロディーテが教えてくれて助かった……)
昔から魚座の黄金聖闘士はやたらとそういう事に詳しかった。
だが、あまりそういう話をしない人物でもあった。
(武器にバラを使うから、植物の伝承に詳しいだけかと思っていたが……)
本当にそれだけなのか?
アイオロスの行動の不可解さに疑問を持っていた彼は、アフロディーテの存在に疑問を感じた。
仲間としては信じるが、彼らは本当に自分が見たままの存在なのだろうか?
(……今はここから出る事を最優先しよう……)
アルデバランは慎重に細い道を歩きだした。