「女神の試練の時だと思うけど、貴女に『泣いている暇はない。……是非協力してもらうぞ』って言った女性、覚えている?」
その時の状況を思い出して、パンドラは椅子から立ち上がりビックリした様に瞬のことを見た。 エリスも険しい表情で、瞬を見る。 「それはエリスが私に言った言葉だ。
何故、アンドロメダがそれを知っている。 アテナから聞いたのか?」 彼女の言葉に、やはり目的の存在がエリスであるという確認が出来て、瞬はようやく依頼を果たせると思った。
「あの……、信じて貰えないかもしれないけど、僕、冥王に会ったんだ」 この発言に、冥闘士たちと一輝の表情が硬くなる。 「貴様、戯れ言を言うと只では済まさん」
ラダマンティスが今にも攻撃しかねない顔つきになる。 ミーノスもまた目つきが鋭くなっており、攻撃するタイミングを計っているかの様にも見えた。
そんな空気の中で、エリスが楽しそうに笑う。 「何か面倒な事でも頼まれたのか?」 彼女は面白そうな話だと言いたげに、瞬に話しかける。
「うん。エリスへ伝言。 望むものは箱の中にあるって言ってたよ」 冥王が箱と呼ぶものは、どう考えても彼を封じ込めていた箱。 (それ以外のものは、そもそも覚えてなど居ないと思う……)
パンドラは妙に断言することが出来た。 「では、アンドロメダは弟に会ったのだな」 彼女は大切な弟との和解を思い出す。 「……貴女が冥闘士たちと一緒に自分のことを待っていてくれるって約束してくれた事、嬉しそうに言っていたよ」
(表情の変化は微妙だったけど……) そう言いそうだったが、瞬は言葉を呑み込む。 そしてパンドラの方は、感激して目に涙を浮かべる。 「そうか、ハーデスは嬉しそうにお前に言ったか……」
そして彼女は瞬の言葉を素直に信じる事にした。 弟の伝言を聞いた今、彼女は箱ごとエリスに渡しても良いと思っている。 「判った。エリスに箱を渡そう。好きにしろ。
あれは今、冥界のハーデス城にある」 彼女はそう言って部屋から出ようとする。 「パンドラ様、アンドロメダの言う事を信じるのですか!」 ラダマンティスの言葉に、彼女は振り返った。
その表情は、何処か厳しいものがあった。 「アンドロメダは私と弟の約束を知っていた。 それで十分だ。 それともお前は私と弟の約束など、有り得ないものだと言いたいのか?」
怒気の含まれた口調に、ラダマンティスはすぐに謝罪する。 「今回はアンドロメダのお陰で、早く済んだ。 感謝するぞ」 エリスはそう言って、パンドラに続いて部屋を出る。
「ラダマンティス。拙い事になりましたね」 ミーノスが小声で話しかける。 今、冥界のハーデス城には、正気でなくなった冥闘士たちが閉じ込められている。
「パンドラ様が箱を何処に置いたのか、判りますか?」 しかし、ラダマンティスは首を横に振る。 「……」 「まぁ、腹を括りましょう」 パンドラは冥闘士たちの異変をまだ知らない。
ラダマンティスはエリスの言葉が現実のものになりそうな気がした。 |