「では、この城の中を自由に動いても良いという許可を与えよう」
パンドラの言葉に、エスメラルダはますます恐縮してしまう。 とにかくこの豪華な空間には、圧倒されてしまうのだ。 「あ、あの……、森に入っちゃダメかな?」
貴鬼も城の中よりも外の方が興味深かったので、パンドラに頼んでみる。 「外か? それは構わないが、此処にはお前たちに近付いて欲しくない場所がある。
その約束を守ってくれるのなら、許可しよう」 するとエリスが貴鬼の方を見る。 「牡羊座の弟子。ここで約束を破れば、即聖戦だ。
そして今度は聖闘士の方に非がある事になる。 軽はずみな真似をして、師匠を戦場に再び立たせる様な事はするなよ」 脅迫染みてはいたが、貴鬼はムウが再び戦いに赴かなくてはならないと言われて、自分の今居る場所の危険性に気がついた。
自分は今敵地に居るのである。そしてこの平和は、双方が仲よくなったからではない。 冥王と女神の闘争が、一旦終わっただけの事なのである。 「……エリス。幼子を怖がらせるな。
それに立ち入って欲しくない場所は、はっきりと判る。 森をうろついただけで難癖をつけるような真似はしない」 パンドラは呆れ返ってしまう。
「……だそうだ。安心して森を探索しておけ」 争いの女神は楽しそうに笑う。 しかし、そこまで言われると、今度は貴鬼もエスメラルダも動けない。
「仕方ない。フェニックスとアンドロメダは、二人に付いてやれ。 後で頼む事が出来た時、強制的に呼ぶ」 だから心配するなと言いたげなエリスの口調に、瞬は溜息をついた。
(本当に、人の都合は考えないんだなぁ) その時、パンドラが瞬の事を呼ぶ。 「アンドロメダ。一つ聞いて良いか?」 彼女の問いかけに、瞬はエスメラルダの事を尋ねられると思い、心の中で準備をする。
そう言えば、此処に来てからパンドラも冥闘士たちも、自分とエスメラルダの顔については何も言わない。 「何ですか?」 すると彼女は瞬の顔をじっと見る。
「何か黒い靄の様なものが付いているが、何処かに行ってきたのか?」 この時、瞬は自分の腕や手を見たが、そのようなものは付いていない。
「黒い靄?」 すると彼女は、見えないのなら気にしないでくれと言う。 (あっ!!) この時、瞬はエリュシオンで冥王から頼まれた伝言を思い出す。
あの時にパンドラが会話していた存在こそ、冥王が『あやつ』と言った者なのだ。 ならば彼女に尋ねれば良い。 「それじゃ、僕も一つ質問していい?」
何事かと思い、緊張した面持ちでパンドラは頷く。 |