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続・美しき森 1

その訪問者を見た時、パンドラは少しだけ眉をひそめた。
訪問者の背後で、顔色の悪い部下たちの事も気になる。
「久しぶりだな、パンドラ。 レーテーの水は飲んでいなかったようだな」
エリスの挨拶に、彼女は頷く。
「エリスも元の姿に戻ったようだな。依代の娘はどうした?」
「まぁ無事だ」
「アテナはどうした? レーテーの水を飲んでいたか?」
聖域の状態を知らない彼女の言葉に、一輝と瞬は表情を硬くした。
しかし、エリスから口止めをされているので、彼らは何も言わない。
「アテナは今、自分の務めを全うしている。 レーテーの水は飲んでいないから心配するな。
それよりお前に会わせたい者がいる」
争いの女神の言葉に、パンドラは二人の聖闘士たちの方を見た。
だが、エリスは彼女の視線の意味を否定する。
「お前たちがデスクィーン島で見つけた娘だ」
エリスに引っ張りだされて、花を抱えたエスメラルダが前に出る。
「あ、あの……」
パンドラが自分に対して気遣ってくれたことをエリスに説明されても、エスメラルダとしてはどう挨拶して良いのか判らない。
彼女は顔を真っ赤にして、花束をパンドラの前に出した。
「助けてくれて、ありがとうございます!」
実際にデスクィーン島で助けたのはサガなのだが、他に言い様が無い。
パンドラはそんな彼女の戸惑いを感じて、花束を受け取った。
「もう身体の方は大丈夫なのか?」
「はい。ご心配をおかけしました」
自分と全然立場の違う女性であることは、エスメラルダにも判った。
(どうしよう……。ちゃんと答えられなくて、一輝に迷惑をかけちゃったら……)
場違いであることは判っているのだが、エリスが何かの目的で自分をここへ連れてきたのである。
彼女は緊張した面持ちで、パンドラのことを見た。
「ところでパンドラ。頼みたいことがある。
以前、冥王が封じられていたアテナの箱を貸してくれ」
争いの女神の本題に、パンドラが青ざめる。
「貴様、何を言っている!」
女主人の背後に居て、彼女を護衛していたラダマンティスが前に出ようとする。
だが、そんな彼の行動を、彼女は止める。 花束を持てという仕種で……。
「本来なら断る所だが、エリスには借りがある。 詳しい話を聞こう。
入ってくれ」
パンドラが許可した以上、冥闘士たちは異論は唱えない。
そして勇猛なる三巨頭の一人は、渋々花束を持つ。
「似合いませんねぇ」
ミーノスは過半数がそう思いながら言わずにいた事を、あっさりと口にした。

シルフィードとゴードンはラダマンティスに幾つかの報告をすると再び警護の為、森へ戻った。
「働き者だな」
エリスは感心した様に、ラダマンティスの方を向く。
「ワイバーン。 あの時の約束は覚えているか?」
初めてエリスと対峙した時に、争いの女神は一方的に三巨頭たちに言った言葉。
『いずれその忠義の程を試させてもらう。
その時お前たちの手がパンドラの血で汚れていたならば、先程の言葉の代償を貰おう』

ラダマンティスは花束を持ったまま無言で頷いた。