「エリスが来ただと」
ミューの報告にパンドラは椅子から勢い良く立ち上がったが、立ちくらみを起こしてしまう。 ラダマンティスは慌てて彼女の身体を支えた。 「はい。ミーノス様がお二方に連絡をする様に私に命じると、急いで会いに行かれました」
そう言って彼は机の上に水仙の花を置く。 「それでは、出迎えねばなるまい。 ミュー、よくぞ攻撃せずに取り次ぎを引き受けてくれたな」 彼女は部下の冷静な判断を褒めると、自分を支えていた男から離れて部屋を出る。
しかし、ミューは何か割り切れないと言いたげな表情だった。 「どうした?」 不審に思ったラダマンティスが尋ねる。 「ラダマンティス様。あのエリスという女は何者ですか?」
もっともな質問ではあるが、何者かといわれれば彼自身どう答えようかと思った。 「ミュー。何故、そのような事を聞くのだ?」 「いえ、過ぎた事を申しました。ご容赦下さい。
ただ、あの女は言葉ではない何かで、私の意識に語りかけたのです。
『大地の女神の支配地で、争う気は無い。
お前たちを束ねる三つの荒ぶる力に、死と眠りの妹が会いに来たと告げよ』
私はその言葉を聞いた時、この女には勝てないと思いました」
確かにラダマンティス自身も、エリスに勝てる気はしない。 だが、それ以上に彼女と争ってはいけない様な気がするのである。 「エリスは今回の女神の試練で、パンドラ様と共に我々の復活に力を貸してくれた女神だ。
少なくとも今は敵ではない」 無難な返事をした後、ラダマンティスは部屋を出る。 ミューは彼の言葉に無理矢理納得すると、その後を追った。
|