「これを持っていけ」 するとミューは素直に受け取り、後からきたシルフィードたちに何かを言うと、そのまま森の奥へと姿を消した。 「どうやら、あの冥闘士が取り次いでくれる。
我々はここで待とう」 エリスは満足そうな笑みを浮かべている。 「お前、ミューに何をした」 シルフィードが警戒しながら、エリスに問う。
「何をしたの?」 思わず貴鬼も尋ねる。 「話をしただけだ。 それ以外に何がある」 この返事にシルフィードたちが納得できるわけがない。
「ミューがお前たちを攻撃するなと言ったから、しばらくは待ってやる。 だが、もし貴様がミューに変な小細工をしたのであれば……」 そう言いかけてシルフィードは黙ってしまう。
自分の中で、何かがそれ以上何かを言う事を拒んでいるのである。 「どうした。シルフィード」 ゴードンが彼の肩を揺する。
だが、シルフィードは荒い呼吸を繰り返すばかり。 「小細工をしたらどうするのだ?」 エリスは面白そうに笑う。 この時、ハインシュタインの森が異様に騒めいた。
城では森の騒めきに、ミーノスが外へ出ようとしていた。 そこへ水仙の花を持ったミューが駆けつける。 「何があったのですか」
「はい。異様な雰囲気の女が聖闘士を連れてやって来たのです」 その報告で、ミーノスは誰が来たのか瞬時に判った。 「エリスが来たのですね」
だが、彼はこの時ある事に気がつく。 三巨頭以外の冥闘士たちは、エリスを知らないのである。 (しまった!) 自分の方から聖域に行こうと考えていた矢先に、向こうが動いた。
冥闘士たちはエリスを攻撃するかもしれないが、どう考えても一介の闘士たちがエリスに勝てるわけが無い。 そしてそれよりも重大なのは、エリスの機嫌を損ねたら冥闘士たちの身に起こっている異常事態について何も教えて貰えなくなるという事。
「ミュー。あなたはパンドラ様とラダマンティスに、この事を知らせなさい!」 ミーノスは瞬時にグリフォンの冥衣をまとうと、森を騒がす力の源へ羽ばたいて行った。
「エリス。僕らは戦いに来たんじゃ無いだろ!」 瞬がエリスの腕をつかもうとしたが、見えない壁に拒絶されてしまう。 「エリス!」
一輝は咄嗟にエスメラルダを自分の背に移動させて庇う。 既にシルフィードは立ち上がる事が出来ない。 「エリスさん、ダメだよ」 どうしても止めなくてはと思った貴鬼が、エリスに抱きつく。
すると彼女はシルフィードたちの方を見ながら、貴鬼の肩を軽く叩いた。 「未来の牡羊座。三巨頭の一人、グリフォンがやって来たぞ」 遥か上空から、大きな黒い翼が舞い降りる。
貴鬼はこの時グリフォンに対して、敵意や恐怖よりも、その力強さと黒い輝きを凄いと感じてしまった。 「この者たちの非礼はお詫びします」 グリフォンのミーノスは、エリスに対して静かにそう告げた。
「グリフォン。冥闘士たちは自らの任務に忠実だっただけだ。 それに戦闘状態にはなっていない。 その二人を責めるな」 エリスは薄く笑いながら冥闘士たちの弁護をした。
|