身体全体で感じられる異様なまでの重圧。 双児宮にて、ある光の円陣からそれが吹き出した時、全員がそこから現れるであろう使者の登場を待った。 だが、白い煙が何らかの形を作ろうとした瞬間、床に幾つもの赤い光の円陣が出現したのである。
沙織と星華は、咄嗟にエリスが攻撃された時の事を思い出す。 「使者が攻撃されるわ!」 沙織がそう叫んだ瞬間、アルデバランが白い煙へ突進した。
ポリュデウケースの仕掛けた罠が使者を攻撃すれば、その時点で開戦となる事が判ったからである。 (どう守ればいい!) 何をすれば良いのか咄嗟に判断できなかったが、とにかく使者を守らなくてはならない。
彼が白い煙に触れようとしたその瞬間、赤い光は彼と天上界からの使者であろう白い煙に降り注いだ。 そして赤い光の洪水が終わった後、アルデバランは消えていた。
白い煙も、吹き出していない。 「アルデバラン!」 沙織は牡牛座の黄金聖闘士が消えた場所に駆け寄る。 だが、床には人が居たという跡さえ残っていない。
「そんな……」 思わず沙織は両膝をつきそうになったが、なんとか堪える。 今は悲しんでいる場合ではない。 ここで自分が感情に流されてしまったら、今までの聖闘士たちの努力が無駄になってしまうのだ。
その時、双児宮の壁が音を立てて崩れようとしていた。 ムウが咄嗟にクリスタルウォールで保護をする。 だが、壁のきしみは止まらない。
「ムウ!」 「私は大丈夫です」 そうは言うものの、彼自身この建物全体に何らかの負荷がかかっている事は判った。 そして自分の力を無効化しようとする何かがある事も。
いつもなら壁を補強する事など何でもないというのに、今は全神経を集中させないと無効化しようとする力に自分が呑み込まれかねない。 (この分だとポリュデウケースには、今の黄金聖闘士たちの力については全部バレている……)
敵と判断したからこそ、向こうは自分たちについて調べ尽くしている。 (アルデバラン……) 頼みの綱である牡牛座を失っては、時間稼ぎはほとんど不可能。
ムウはいつ沙織たちを脱出させようかと考える。 だが、人馬宮にいるエリスの依代である少女にまで、手が回るか判らなかった。 |