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美しき森 2

「一応、この者たちは使用人としてここで働くべく、呼ばれた者たちだと思う。
ただ、そうなると我々冥闘士はここに居ない方が良いように思うのだが……」
彼はそれが正しい事とは思えなかったが、良い事のようには思えた。
だが、ミーノスに睨まれてしまう。
「……ラダマンティス。何をバカな事を言っているのですか。
私たちが急に居なくなったら、それこそパンドラ様は一人になってしまうのですよ。」
意外な反論に、ラダマンティスは目を見開く。
「物事には順序というものがあるのです。
ハーデス様が私たちをパンドラ様の前から立ち去らせるのならいざ知らず、私たちが勝手に離れてどうするのですか。
それに13年前と変わらずに金と権力がハインシュタイン家に残っているとしたら、パンドラ様が城に戻ったという事で、動きだす者たちが出てくるでしょう。
もしかすると気をつけなくてはならないのは、聖域やあの双子座よりもパンドラ様の親戚たちかもしれません。
貴方はそれこそ得体の知れない者たちの中に、あの方を放り込むつもりですか?」
既に自分たちの存在は村人たちに知られていると考えた方が良い。
冥闘士であることは知られていないだろうが、ハインシュタイン家ゆかりの人間が戻ってきたと思われてはいるだろう。 そうでなければ村人がシルフィードとクィーンに話しかけたりはしない。
女神の試練で身動きが取れなかった三日間の間に、ハインシュタイン家を取り巻く環境は物凄い勢いで変わっている恐れがある。
「判った。 あらゆるものからパンドラ様を守る決意はあったのだが、潜在的な敵までは気が回らなかった」
自分はここにいて良いのだと他の者に言われたことで、彼の心は少し軽くなる。
ミーノスも特にそれ以上は追求しない。
「まぁ、今回は気弱になった貴方が見れましたから、この件は内緒にしてあげますよ。
とにかく急に時間が流れたかのような状態ですから、人間側に負担をかけて騒ぎを大きくするのは避けなくてはなりませんね」
彼は見終わった書類をラダマンティスに渡す。
「まずは地上とこの城の中では、冥闘士たちには一応冥衣は外してもらいましょう。
その代わり人間たちには冥界の入り口につながる、あの廃屋には立ち入らせない。
それからクィーンに、ハインシュタイン家の親戚たちの動きを探らせて下さい」
「すぐにやらせよう」
「私もルネを呼んできます。 とにかく三日間のロスを取り戻さなくてはなりません。
それから書類を見た限り執事の職務についていた者がいませんから、それは冥闘士にやらせましょう。
その方が人間側の動きを把握し易い」
さて、それを誰にするかというとになったのだが、正直言って今城の中にいる者たちは城を管理するという役目には向かない。
彼らはラダマンティスの下にいてこそ、その実力が発揮できるのである。
「地暴星のギガントにやらせましょう。彼の洞察力には定評があります。
大勢の人間が出入りするようになれば、狡猾な人間を相手にしなくてはならない事もありますしね」
ミーノスの言葉にラダマンティスは一瞬、返事をするのを躊躇ってしまった。
(おまえより抜け目のない奴は見たことないぞ)
そんな考えが過ったせいである。
ミーノスは彼のそんな態度に何か気付いたらしく、目だけ笑っていない笑顔を見せた。
二人の間に微妙な空気が流れる。