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不信 4

海で育ったポセイドンは、弟であるゼウスが父神を倒せるまでに育つのを待つしかなかった。
自分がどんなに力を得ても、自分では父神を倒してハーデスや姉たちを助けることが出来ない。
そしてゼウスが倒す事によってしか、父神であるクロノスが他の神々に与えた恐怖を払拭することは出来ない。
自分では実際に倒せたとしても、予言の子ではない為、世界は常に父神の影に怯えることになるからだ。
それほどまでにガイアの予言は絶対だった。

だが、父神に呑み込まれた兄と姉たちの事は心配だった。
もしかすると自分たちが救いに行くのが遅くて、もう父神に吸収されてしまっているのではないかと、思わないことも無かったからである。
そして母神レアーは夫にポセイドンとゼウスの事を知られたくなかったので、彼に会うことはしなかったし、ポセイドンを養育していた者たちには、彼がゼウスに会いに行く事を禁止させていた。
ゆえに、彼は常に孤独の中にいた。
心の中に沸き上がる闇は、徐々に彼自身を蝕んでゆく。

そして運命の闘いの時、ポセイドンはようやく兄弟たちに会うことが出来た。
だが、その頃にはハーデスもゼウスも自分という存在を認めていないのではないかと疑心暗鬼になっていた。
自分は結局、戦いが起こるまで動くことが出来なかったのだが、その判断自体が間違えていたのではないのか?
その前に父神の腹から、ハーデスと姉たちを助け出すことが出来たのではないか?
結局、戦いの後、姉たちや兄弟に何も尋ねる事無はなく、彼は海の支配者となった。
そして彼の中の闇は、静かになる。
だが彼の誤算は、闇は消えたと勘違いをした事にあった。


中庭にやってきた春麗は、その様子があの時とかなり変わっていることを予測をしていながらも、やはり驚きの声をあげた。
「綺麗になっていますね」
庭は整備されており、柔らかな光が降り注いでいる。
「事件は神話の時代に起こっていたのですから、長い時間の間に意味も判らずに補修されていたのでしょう」
自分たちに前世の記憶でもあれば何かが判るのであろうが、生憎そこまで詳細な記憶は無い。
前世の記憶を持ちつづける事自体が稀すぎるのである。
「鱗衣たちなら、何か覚えているのかもしれないけどな」
イオはそう言って、自分のスキュラの鱗衣に手を当てた。
その瞬間、彼らの鱗衣から小さな光が次々と沸きだした。
光は鱗衣の表面を走っているかの様でもある。
「!」
そして彼らは、巨大な力が訪れたことを知る。
春麗は彼らの表情が変わったことに気がついて、表情を強張らせた。
『鱗衣たちよ。あの子の為に泣いているのか?』
やって来たのはクラーケンのアイザックを従えた海皇。
彼がジュリアンの身体でやって来たことに、ソレントは青ざめた。