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不信 3

(このような時が、いつかは来ると思っていた……)
海皇ポセイドンは、クラーケンのアイザックを従えて聖域の浜辺へやってきた。
浜辺の大地は抉られており、爆発の凄惨さを物語っている。
だが、海面は陽の光を受けて美しく輝いている。
(アテナは敵対しながらも、この美しい場所に神殿を作ってくれていたのだな……)
今でこそ、何故この浜辺に神殿が建てられていたのか誰も知らないが、元々ここにそういう場所を作ったのは、アテナがパラスとの友情を大事にしていたからである。
海界側で何かあった時に、親友が助けを求め易い様にしたのだ。
地上は色々な意味で海や山のお陰で外敵から身を守れるのだが、海の世界はそういうわけにはいかない。
古の時代に勢力を誇ったモノが、その深い海の底から目覚めることがあるかもしれない。 別の大地で巨大な邪悪が胎動しているかもしれない。
その時に真っ先に攻撃を受けるのは、聖域ではなくて海世界なのである。
まず海を制さなければ、それらのものは何処にも移動することが出来ないのだから……。
だからこそ、孫娘であるパラスを競いの女神に託すことにしたのである。
だが、それは海皇自身の中で眠っていた、破滅の意識を目覚めさせることに他ならなかった。


血の宿命なのかもしれない。
だが、それはあまりにも非情だった。
原初の時代、地母神ガイアは天空神ウラノスとの間にたくさんの子供をもうけた。
だが、ウラノスが自分の子供であるヘカトンケイルとサイクロプスたちをタルタロスへ落とした時、ティータン神族と呼ばれる子供たちに彼らを救い出させて、ウラノスを討ち取った。
そしてウラノスの権力を引き継いだのは、末子であったクロノス。
しかし、そのクロノスもまた、ヘカトンケイルたちを再びタルタロスに落としたのである。

この非情なる振る舞いに怒ったガイアは、自分の子供であるクロノスに恐ろしい予言を告げる。
クロノスもまた、自分の子供によりその地位を奪われる。
これによりクロノスは、姉妹であり妻であるレアーの産んだ子供たちを、次々と呑み込んだのである。
ヘスティア、デメテル、ヘラ。先に生まれた姉たちが、まず呑み込まれた。
次に長男として生まれたハーデス。
この時、母親のレアーは絶対的な闇の力を持つハーデスを呑み込んだ夫の不気味さに、恐れおののいた。
死を司る者をその身に取り込んだクロノスもまた、自らの不死性を過信する。
次に生まれたのがポセイドン。
この時、レアーは子馬を布にくるんで夫に渡した。
予言の子ゼウスだけでは、クロノスを倒す事は難しい様に感じたからである。
そして妻は自分を裏切らないと考えていたクロノスは、布の中のモノを確かめずに呑み込んでしまう。
そしてゼウスが生まれた時、母神レアーは石を布で包むと夫に渡し、その子はクレータ島で精霊であるクーレースたちに託した。