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不信 2

海将軍たちに連れられて、春麗は初めて海底神殿を外側から見る。
「凄いわ……」
蒼い世界にそびえる神の空間は、とても美しい。 彼女の呟いた言葉に、バイアンが嬉しそうに笑った。
「今は先の闘いで所々破壊されているが、全ての修復が終わればもっと美しい姿を見せてくれる筈だ」
その人懐っこい笑顔に、春麗の中にあった海闘士たちの印象は、かなり変わりつつあった。
彼は神殿前に到着すると、春麗を下ろした。
「ところで急ぎのあまり詳しい話を何一つ聞いていないが、貴女は何を知っているのだ?」
そう尋ねられても、彼女としてはどう説明したらいいのか判らない。
だが、判断するのは海将軍に任せる事にして、彼女は素直に自分が見たままの事を、神殿の中に入る前に告げた。
彼らは何もいわずに彼女の話を聞く。
例えそれが荒唐無稽と思えても、彼らは否定的な事は何一つ言わなかった。

神殿の中は静まり返っており、生き物の気配はない。
「あの中庭が、霊廟跡だとは知らなかった」
いくら春麗がその事を知っていても、神殿の入り口から中庭へどう行って良いのか判らないので、彼女は海将軍たちに案内をしてもらう形になる。
「きっとそこに安置されていたのが、ポセイドン様の孫娘という事なのでしょう」
ソレントは苦渋に満ちた表情をする。
今更ではあるが、自分の主の旧悪を暴き立てている事が辛いのである。
だが、知らないでいれば、もっと酷い事態になる事も判っていた。
(初代の海将軍たちは何をやったんだ?)
主が自分の孫娘に危害をくわえる事に、手を貸したのだろうか?
予想をすればする程、思考は破滅的な方向に進む。
(エリスが言う様に、女神テティスは自分の知りたいことを教えてくれるだろうか?)
ソレントはこの時、今まで自分たちが守護していた海世界の危うさを目の前に突きつけられた様な気がした。
もしここで女神テティスに拒絶されたら、何も判らなくなってしまう。
(春麗さんに対しては親切かもしれないが、我々に対しては無理かもしれない)
かの女神は既に二人の海将軍を捕らえている。
彼は自分の隣を歩いている少女を見た。