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伏甲 2

黒の聖域に続く洞窟の入り口にはシャイナは立っていた。 運良く謎の石像とは遭遇せずに済んだ。
(だからと言って、あいつがここにやってこないと言う保証はないけどね)
彼女は一度外の様子を確認しながら、洞窟の中を覗いた。既にデスマスクとシュラが中に入っている。
だが、彼女はデスマスクから中に入らない様に言われた。
洞窟中に充満している妖気の強さに、彼が気付いたからである。

「妖気の強さから言って、俺たちもあまり長くは居られないかもしれない。
とにかく力の性質が違い過ぎる」
その技が死に最も近いデスマスクの言葉に、シュラは反論しなかった。
(三巨頭たちの言った事は本当だったんだな)
この島はアテナの管轄地でありながら、冥府に近い性質を持っていたのである。
冥府が決戦の場となった時、光をまとう黄金聖闘士たちの闘いはそれこそ命をかけねばならなかった。
支配者の異なる土地ではアテナがその力を削がれたら、彼らの最強の力は簡単に封じられてしまう。
むしろペガサスたちのような青銅聖闘士たちの方が、相手の油断を誘える分有利なのかもしれない。
「シャイナはここで待て。 俺たちが戻って来る気配を感じなかったら、聖域に戻って教皇に事の次第を伝えろ。
ここの場所を詳しく知っているのは、お前だけなんだからな」

そして二人は洞窟の中へ入っていった。
だが洞窟の中からは人の動きも戦闘の気配も感じられない。
(これでは何の役にも立てないじゃないか!)
連絡係どころか待ちぼうけになってしまう。
(短い時間なら、あたしが入っても平気だろう)
争いの女神に身体を癒してもらったので、ここから必死になって脱出した時よりは、まだましな動きが出来る筈である。
シャイナはもう一度外の様子を確認すると、洞窟の中へ入っていった。


その頃、人馬宮に白鳥座の神聖衣と一緒に残された絵梨衣は、エリスの言葉に対して真面目に考え込んでしまう。
(お守りって、どうしたらいいのかしら?)
薄暗い部屋の中で、恋人の神聖衣は美しい光を放っていた。
そしてその輝きを見て、彼女はあることに気がついた。
「あらっ……?」
床に座っていた彼女は急いで立ち上がる。
まだ少ししか時間が経っていないというのに、部屋が暗くなってきたのだ。 足元の円陣は相変わらず点滅を繰り返している。
「どうして?」
慌てて周囲を見回して、彼女はその原因に気がついた。
自分のまとっているマントが徐々に形を失い、空間に溶け込もうとしていたのである。