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説得 4

その頃ムウとアルデバランが白羊宮を抜けて金牛宮へ入る。
「エリスはいったい、何の細工をしたんだ!」
彼はムウに尋ねる。
話には聞いていたが、実際に白羊宮を出た途端に金牛宮の入り口に立っているというのには、アルデバランは驚いてしまう。
「多分、これはエリスの利用する特別ルートです。今は有り難く使わせて貰いましょう」
それゆえ、双児宮へ辿り着くのは簡単だった。
何しろ金牛宮を出た途端に、目の前に目的の黄金宮がそびえ立っていたのである。

「ムウ。アルデバラン」
部屋の中心にいた沙織は、二人の黄金聖闘士たちの登場に驚きと喜びを隠しきれない。
床にしゃがんでいた星華が立ち上がる。
「どうしてここに!」
彼女の両足には、既にかなりの模様が光を放っていた。
本当なら痛みで動くのも辛いのだが、星華に心配をかけたくないので、何事もない様に振る舞っていた。
「女神エリスに天上界からの交渉事を一任されました」
アルデバランはそう言って礼をする。
「私はアルデバランの補佐を依頼されました」
彼らの言葉に沙織は驚く。
「なんで! エリスは何を考えているの?」
「かの女神はポリュデウケースに関して我々と手を組みました。
その為には天上界の侵攻を後らせる必要があるという事で、古の約束に基づき牡牛座である私を交渉役に任命したのです。
女神アテナ、この場は私に任せてくださいます様、お願いいたします」
アルデバランの説明に、沙織はしばらく考えた後頷いた。
「大神ゼウスの聖獣をまとう者。 天上界の事に関しては貴方に任せます」
自分の身を媒体として術をかけている最中なので、沙織が交渉役をする事は避けなくてはならない。
交渉中に術が完成する事も考えられたからである。
そして二人の黄金聖闘士たちが部屋の様子を見回した時、床の円陣の幾つかが、その輝きを強めた。
そして双児宮の壁が軋む様な音を立てる。
「ちょうど来た様ですね」
ムウの言葉にアルデバランは一歩前に出る。
円陣のなかの一つから、明らかに人間のモノとは違う気配を漂わす白い煙が立ち上った。

「始まったみたいだな」
十二宮の方を見て、エリスはそう呟いた。
その場にいた者たちが一斉に十二宮の方を見る。
「それでは、我々も行くか……」
そう言いながら、争いの女神はある事を思い出す。
「教皇。一つ尋ねるが、先程の大きな揺れの原因は何だ?」
あのような力ある衝撃をもう一度でも喰らえば、ポリュデウケースの仕掛けた罠は暴走するかもしれない。
そうなれば天上界との交渉どころの話ではない。
だが、シオンも報告を聞かされていないので、判らないと答える。
それを聞いて、瞬が慌てて返事をした。