パンドラはその女性を見て絶句してしまう。 (……あれはエリス!) 見慣れた服装ではない。 何処か違う文明圏の衣装を、その女神はまとっていた。
そして彼女もまた身体から光が発しているようだった。 「夜の女神のお膝元に、闇の来訪とは珍しい。 お前は何者だ?」 その言葉に、パンドラは驚く。
「エリス。私が判らぬのか」 するとエリスは腕を組む。 「抗議されている気はするが……」 そこへエリスの背後から、金と銀の光が舞い降りる。
パンドラはその二つの光が形を取った時、驚きのあまり声が絶句してしまう。 「ヒュプノス兄上にタナトス兄上。良い所へ来た」 エリスは楽しそうに笑う。
やはり同じように違う文化圏の服装なので、パンドラは別の神を見ている気がした。 そして口調も尊大な様子が見えず、ごく普通の兄弟の会話なので、ますます自分の中の双子神ではない様に思えてしまう。
「何をやっている。母上がお呼びだ」 ヒュプノスは静かに話しかける。 「オリュンポスから使いが来ている。 面倒ならオレが断っといてやるぞ」
タナトスは妹神の顔を覗き込んだ。 「タナトス。 エリスは海皇ポセイドンの孫娘の教育係にと依頼されているんだ。 断れるわけがないだろう」
しかし、タナトスはその言葉を鼻で笑う。 「それが気に入らないんだ。 競いの女神であるエリスなら最強の女神に育てあげる事が出来るが、どうせ大神ゼウスも自分の娘をエリスに育てさせるだろう。
そうなったらエリスは面倒な事に巻き込まれるに決まっている」 すると彼女は溜息をつきながらも微笑んだ。 「兄上。最初から決めつけても仕方あるまい。
それにあの女神たちが争わなければ、少なくとも世界は穏やかな時を過ごせる。 冥王に跡取りがいないのが残念だ」 ハーデスの事を言われて、パンドラははっとなる。
しかし、ヒュプノスもタナトスも自分を見てはいない。 どうも自分の姿が見えないのかと、彼女は思った。 「この間、ホーライの三女神が来たと思ったが、説得されたようだな。
だが、冥王は独身だ。 強いて言えばデメテル様の娘であるペルセポネ様だろう。 あの方は冥王がとても大切にしている」 タナトスの言葉に、パンドラは急に激しい動悸がした。 (何だ、この緊張は……)
彼女は思わずうずくまってしまった。 「兄上たち。それより闇が来訪している。 これが何の為に来たのか判るか?」 エリスは兄たちにパンドラの事を指し示す。
ヒュプノスとタナトスは、パンドラの事をじっと見た。 |