「今の話は本当なのか?」
シオンはカノンを押さえながら、エリスに尋ねる。 「昔話だ。 滅びの使者が、この約束を忘れていたら意味がない。 だが、あの牡牛座なら高い確率で少しは時間が稼げるだろう」
エリスはシオンの方を向く。 「教皇は全ての白銀聖闘士と青銅聖闘士に、臨戦状態になる事を知らせろ。 ただし、先に手を出すのは禁止だ。牡牛座の交渉が無駄になる。
ギリギリまで闘いを避ける様にしろ」 争いの女神は既に闘いの計画を全て練ってあるかのように、てきぱきと指示を出した。 「アイオロスの名前を出しただけで、エリスが味方につくとは……」
シュラは自分の目の前の出来事が、半分信じられなかった。 「そうか? 俺は納得出来る」 デスマスクは腕を組む。 「何故だ?」
「あの性悪女神は、ポリュデウケースに嫌がらせするつもりだ。 それならアイオロスに味方した方が効果的だろ」 真面目なシュラも、エリスに関してはそれで納得してしまった。
(ポリュデウケースは二度もアイオロスに煮え湯を飲まされることになるな……) 一度目はアテナへの暗殺が失敗。そして今度はエリスが味方についたのである。
そこへ当の女神が二人に近付いた。 「蟹座と山羊座は、これから黒の聖域へ行け。 そして確実にポリュデウケースを、この地上に引き止めろ。
蛇遣い座、ご苦労だがこいつらを案内してやってくれ」 「……判りました」 相手は味方になっている女神ゆえに、シャイナは丁寧な返事をする。
「引き止め方は、どんな方法でも良いのか?」 「構わない。 もし、ポリュデウケースがこの世界から逃れようとする気配が見えたら、こう言え」 そう言いながらエリスはシャイナに近付くと、彼女の前に手を差し出す。
その手から、光が零れた。 シャイナは争いの女神が、自分の身体を癒してくれている事に気が付き、驚きで目を見開いた。 争いの女神は言葉を続ける。
「テティスは生きている。 そう言えば、ポリュデウケースは本気になってテティスを抹殺しようとする。 海底神殿まで出張してくれるかもしれないぞ」 エリスはそう言って笑った。
「何だと……」 カノンは意外な言葉に絶句してしまう。 |