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決断 3

「金の娘。この者たちに協力して良いか?」
尋ねられてエスメラルダは一輝の方を見る。
「……危ない事なのでしょうか?」
「それは聖闘士たちの行動次第だ。
だが、危険に対する処理能力は、お前よりも聖闘士たちの方が上だ。
お前が心配する事はない」
エリスの断言にエスメラルダは納得したらしく、小さく頷いた。
「金の娘が了承したからな。不本意だがお前たちに協力しよう。
だが、お前たちは自分に降り掛かる火の粉は自分で払え」
争いの女神はシオンの方を向く。
「聖域の最高責任者。 何人か聖闘士を使わせて貰うぞ」
既に依頼ではなく、命令であった。
だが、シオンは頷く。
「よかろう。 ポリュデウケースの事に関しては、エリスに全面的に協力しよう」
エリスが始めなければ、闘士たちは全員この地上に蘇る事など有り得なかった。
それをアテナから直接聞いているゆえ、他の黄金聖闘士たちも頷く。
少なくとも彼女は聖域が全滅することは望んでいない。
そしてポリュデウケースがエリスを依代に封じ込めようとした事により、向こうはエリスの存在を苦手、もしくは正面から闘いたくないと思っている事が窺い知れる。
「良い覚悟だ。 ならばまずは、時間稼ぎをしておこう」
彼女はアルデバランとムウを呼ぶ。
そしてエリスは彼らに両手を出させた。
「牡牛座。お前はアテナの所へ行って、天上界からの使者が来たら時間を引き延ばせ。
いきなり攻撃を仕掛けられたら、アテナとペガサスの姉を連れて双児宮を脱出させるんだ。
向こうもお前に攻撃を仕掛ける時は、それなりの覚悟をしている」
「何っ?」
「お前は大神ゼウスの聖獣である牡牛をまとう者。
お前が攻撃されるという事は、聖闘士たちに戦闘の大義名分が与えられる。 これは初代の牡牛座からの約束事。
天上界もお前に対してだけは注意する筈だ。
だからこそ、老獪な手段に騙されるなよ」
彼女は笑いながら彼の両手の掌に、何か模様を書く様になぞる。
「とにかく時間を稼げ。お前なら出来る」
そして今度はムウの前に立つ。 同じように両手に何かを書く様に指を動かす。
「牡羊座は牡牛座の補助をしてくれ。
ポリュデウケースの仕掛けた罠が、どう作用するか判らないからな。
それから人馬宮に私の依代がいる。
一応、無事な様にしておいたが、状況によってはあの娘も脱出させてくれ」
氷河の表情が一瞬変わったが、彼は何も言わない。
「……判りました」
ムウは特に何かが書いてあるわけではない、自分の掌を見た。
「術を施した。これで結界に入れる。 早く行け。
アテナが使者と喧嘩して、開戦が早まっては元も子もない」
今のアテナの性格だと実際に起こりうる事なので、ムウとアルデバランは急いで白羊宮へ駆けて行った。