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決断 2

「紫龍、オイラが海底神殿へ行ってみるよ」
貴鬼は不安げに見送っている紫龍に話しかけたが、ムウがそれを止めさせた。
「海将軍が無事に返すといっているのです。それを信じましょう」
聖域が迂闊に向こうの事情に関わるのは、逆に春麗の身を危険に晒す様に思えるからだ。
「良い判断だ。 牡羊座の黄金聖闘士と海闘士の相性は、昔から良くない。
くだらない騒ぎを引き起こすぞ」
エリスは何かを思い出したのか、薄く笑う。
そして彼女はエスメラルダの方を向いた。
「では、金の娘。これからお前に行ってもらいたい所がある」
そう言われてエスメラルダは一輝から離れる事に少しだけ不安を感じていたが、ここにいても自分が役立つわけでない事を察していたので、素直に頷いた。
「まずはパンドラという少女に会ってもらう。
次に会うのは、お前を助け出したサガという男だ」
その発言に、全員が待ての総ツッコミをした。
「貴様! 何を考えているんだ」
咄嗟に瞬と氷河が一輝を止めて、デスマスクがシュラ、カノンをシオンが止めた。
だが、エリスは彼らの行動に対して、わざと楽しそうに答える。
「お前たちは天上界から聖域を守り、ポリュデウケースは未来の聖闘士たちに任せるのだろう? 
しかし、金の娘は今しかサガに会えないのだ。 今、連れて行って何が悪い」
争いの女神相手に怒りを示した所で無駄な事は判っていたが、やはり彼らは怒らずにはいられない。
ただ、デスマスクのみが笑っていた。
「誰があいつのことを未来の聖闘士に任せると言った。
あれは俺の兄だ。勝手に決めるな!」
カノンの怒りに、エスメラルダは泣きそうな表情になる。
怖いというより、何か悲しいのである。
「おい、性悪女神。 何でそうも俺たちに嫌がらせをするんだ?」
デスマスクの含み笑いをした暴言にシュラの方が青ざめる。
「お前、なんて事を!」
「別に良いだろう。 敵対すれば倒すまでの事だ」
するとエリスは意外にも眉を顰める。
「私は争いの女神だぞ。
何故、地上の平和を守る為に存在するお前たちが、私に関わろうとするのだ」
するとデスマスクは即答する。
「お前を無視すれば争い事が無くなるなんて、バカな事考えているわけじゃないだろう」
彼もまたエリスと同じように、相手によって態度を変える様な性格ではない。
デスマスクに押さえられながら、シュラはエリスより先にデスマスクにエクスカリバーを使いたくなった。
「それに、こっちはアイオロスから、サガを助けるにはエリスの協力が必要だって言われているんだ。
サガには借りもあれば貸しもある。
清算しない内に居なくなられると、腹が立つんだよ
聖域を闇に染めた13年という月日は、黄金聖闘士たちを生涯苦しめる。
それは光をまとう者たちが、邪悪に屈した事に他ならないのだから……。
だが、彼らはそれを背負わなくてはならない。
そしてその罪を未来に伝えなくてはならない。
二度とあのような事を起こさない事こそ、彼らの敬愛するアテナに対しての彼らの贖罪なのである。
「……射手座がそう言ったのか?」
エリスは険しい眼差しでデスマスクを見た。
この時、彼らは何かの流れが変わった事に気がつく。
「そうだ。 アイオロスを助け出したら、確認してみろ」
デスマスクは挑戦的な表情になる。
「……射手座に貸しを作っておくか……」
彼女はそう呟くと、エスメラルダの方を見た。