その会話に紫龍が驚いて、怒鳴った。 「春麗を海底神殿に行かせるのは反対だ!」 しかし、春麗は行くと主張した。 「テティスさんはとても優しかったから、大丈夫よ」
だが紫龍には彼女の返事は危機感が欠如している様で腹がたったらしく、ついキツイ口調になる。 「以前は優しかったからといって、今回も優しいなんて信用できるか!
だったら何故、海将軍が攻撃されるんだ」 「それは判らないけど……、だからテティスさんと話をしたいの。 でないと何も判らないじゃない」 紫龍が再び何かを言おうとした時、そんな二人の会話を強引に止めさせたのはシオンだった。
「童虎が春麗を手放さなかった以上、こういう事態は予測できた筈だ。 海の女神と春麗の間に繋がりがあるのなら、今止めさせても、いずれ春麗は海底神殿へ行く。
ならば友好関係にある海将軍たちの管理下にいさせた方が安全だ」 むしろ、敵対している時に春麗が海の女神に呼ばれては、聖闘士にはどうする事も出来ない。
そう言われて、紫龍は悔しそうに俯いた。 春麗は逆に紫龍が一緒でない事にほっとする。 (出来る所まで、私一人でやらなきゃ……)
任務中とは言われたが、ムウですら自分に対して老師の事を言わない。それは老師の身に何かが起こったという事に他ならない。 ならば、あの孤独な夜を越えられる強さを……。
大好きな紫龍を束縛する様な弱い自分と、決別する時が来たのだと彼女は決意した。 だが、エスメラルダの事は心配だった。 エリスは優しい笑みを浮かべると、彼女の気持ちに助け船を出す。
「シュンレイ。金の娘には、これからある所に行って貰わねばならない。 お前を待たせてしまうと思ったが、これなら海将軍たちと一緒に行ってテティスに会って来い。
後で必ず金の娘は、お前に返そう」 エリスは名を知っていてもエスメラルダの事を金の娘と言うつもりらしい。 いきなり仕切られて、一輝が驚く。 だが、エリスは彼の対応を平然と受け止める。
「パンドラは金の娘の事を心配していた。見つかったのなら直ぐに連絡をした方がいい。 とにかくお前たちは娘たちに関われる状態ではないだろう。 セイレーン。シュンレイを海底神殿へ連れて行ってやってくれ。
お前の知りたかった事を、女神テティスが教えてくれる」 ソレントは一瞬戸惑ったが、直ぐに決意を固めた。 「春麗さん。 私が貴女の安全に関して、最大限の注意を払います」
その礼儀正しい対応に、春麗の方も素直に頭を下げる。 「宜しくお願いします」 するといきなりバイアンが春麗を抱き上げた。 彼らもまた時間との勝負なのである。いくら春麗を走らせたとしても、彼らの移動能力に追いつけるわけがない。
ならば担いだ方が早いに決まっている。 判ってはいるが、紫龍には面白くない。 「それでは、彼女を借りる。後で必ず返す!」 バイアンは星矢に向かって言う。紫龍とはあまり面識が無い為だった。
だが、星矢としては頷いていいのか迷うところである。 そしてソレントとバイアンとイオが春麗を連れて、広場から走り去った。 |