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衝撃 2

ところが神殿内に入ってみると、彼らは神殿内に漂う緊張感に気がつく。
そして何人かの海闘士たちが見張り兼調査をしている筈なのに、人の気配がしない。
「あいつら、何処へ行ったんだ?」
そう言いながらもバイアンは、彼らがサボるような者たちでは無い事は充分承知している。
「この雰囲気から言って只事ではないのは判るのだが……」
クリシュナもまた黄金の槍を固く握った。 無人の神殿内に彼らの足音だけが響く。
しかし、しばらくして別の場所から別の足音が聞こえ始めたのである。
三人の海将軍は敵なのか味方なのか判らない、その足音の主に近付いてみることにした。

そして出会ったその者は、三人に対して敬意を払う気は全くなかった

海底神殿の外では、二人の海闘士がようやっと瓦礫の処理を終えた時、直ぐ傍で爆発音と共に一人の海将軍が転がり出てきた。
「シーホース様!」
彼らは急いでバイアンに駆け寄る。
バイアンは睨み付けるような眼差しで神殿の方を向いた。
だが、そこは傷一つ無い壁。破壊されたと思っていた二人は、お互いに顔を見合わせる。
彼らは壁に触れたが、やはり只の壁だった。
だが、バイアンはこの場所から外へ飛び出したのである。
(テティスかと思って油断した。あれはいったい誰なんだ!)
向こうも自分たちに何かを言っていた様だが、声を聞くことが出来なかった。
ただ、最後にテティスと同じ声で
「逃げて!」
と、叫ばれたことは覚えている。
その瞬間にクリシュナが黄金の槍で壁を壊し、カーサに蹴飛ばされて外へと出された。
あの二人がどうなったかは確かめようがない。
そこへ、神殿の見張り兼調査を命じられていた海闘士たちが、何事もなかったかの様に壁を見ながら彼らの方に近付いてきた。
「お前たち! 今まで何処にいたんだ」
バイアンの剣幕に、彼らはずっと神殿の中で任務を行っていたと言う。 その態度に不審な点は見られない。
(まさか……、あの時だけ俺たちは別の空間に居たというのか……)
一人だけ異次元を操る海将軍がいるので、そういう事が起こっても不思議ではないが、あまりにも自然に自分たちは捕らわれ人になった。
(何故かを考えている時間はない。あいつらを見つけないと!)
バイアンは海闘士たちに神殿内をくまなく探索する様命じる。 彼らは、慌ててその場を離れた。
(シードラゴンとセイレーンには悪いが、クラーケンとスキュラを戻して貰うか……)
その時、彼の脳裏に別の考えが浮かぶ。
(シードラゴンを引っ張りださなければ、多分駄目かもしれない)
それは直感とも言えた。
(だが、こっちの問題を優先して来てくれるだろうか?)
仲間に対して疑問を持ちたくはないが、聖域の方では自分の兄が敵になっている。
カノンがそれを誰かに任せて、こちらに来るとは思えない。
バイアンは左腕に痛みを感じたので見てみると、血が流れていた。
実際の所、あちこち怪我をしているのだが、怪我に構っている暇はない。
彼は神殿の入り口に向かって歩きだした。