光の爆発。 そこからダイダロスを引き離すのに、一輝はかなりの労力を使った。 本来、彼も聖闘士なのだからそのような事をする必要はないのだが、弟の師匠であり一輝自身がダイダロスに対して何か引っかかるものを感じていた。
そして自分も弟も神聖衣をまとっているが、彼は白銀聖衣。 しかもその白銀聖衣にヒビが入ったのを見た時、反射的に彼の手はダイダロスの腕を掴んでいた。
今、彼は傷ついた身体を近くの大岩に寄り掛かり、身体を休めている。 爆発により大怪我こそしていないが、力が奪われたかの様に身体が重い。
(こんな所で休んでいる場合ではない) だが、立ち上がれないのだから、どうしようもない。 その時、自分を呼ぶ少女の声が耳に届いた。 (何!)
忘れることの出来ない思い出が蘇る。 一輝は声のする方へ顔を向けた。 「一輝!」 そこにいたのは金色の髪の美しい少女。 隣には自分の弟がいる。
「エ、エスメラルダ……」 重い身体で無理矢理立ち上がって、彼は右手を伸ばす。 少女は躊躇う事無く、その胸の中へ飛び込む。 「一輝……。一輝……」
抱きしめながらも一輝には、今自分の身に何が起こっているのかが判らない。 だが、少女が夢の存在ではなく、本当に自分の腕の中にいる事だけは判った。
『やっと見つけた……』 夢の中で彼女はそう言って自分を抱きしめてくれた。 それが現実のものになろうとは。 「何故、ここに……」
君は死んだ筈。 そう言葉を続けたかったが、言う事は出来なかった。 それは今、自分を抱きしめてくれている少女の存在を否定してしまうから。 否定した途端に消えてしまうのではないかと思えたからだ。
「連れてきてもらったの。 一輝、顔を見せて」 彼女は自分に優しかった少年の顔を涙目で見つめる。 そして彼の額の傷に、そっと手を触れた。
「怪我……、残っちゃったね」 「気にする事はない」 そう言った後、今度は一輝がエスメラルダの肩に自分の額を付けて、顔を彼女に見られない様にした。
優しくて暖かい、花の様な少女。 一輝は彼女の前で泣き顔は見せたくなかった。 |