「瞬、無事か!」 二人の会話に他の者たちが瞬の方を見る。 春麗の陰にいたエスメラルダもまた、瞬の方を見た。 「あっ……」 自分に似た異性。
瞬もエスメラルダも相手をじっと見た。 「まさか……、エスメラルダさん??」 瞬は信じられないと言いたげな表情をした。
そしてエスメラルダの方は言葉が出ない。
『また、私を弟さんと間違えましたね』 自分の声が脳裏に蘇る。 (私は誰にそう言っていたの?) 自分に優しかった少年。 (その人がイッキなの??)
弟の身代わりかもしれないが、それでも良いと思った。 その人の大切な部分に自分が関われるのだから……。 『フェニックス……羽ばたいてね……』
(私ノ大切ナ……)
過去の記憶がまるで濁流の様に、エスメラルダに襲いかかる。 「いやぁぁぁぁ」 「エスメラルダさん!」
走り出そうとするエスメラルダを咄嗟にオルフェが抱き留める。 「一輝が殺されちゃう。 あの先生は一輝を……、一輝を……。 お願いだから行かせて!」
涙を流しながら暴れる彼女に、瞬が近付く。 「エスメラルダさん。兄さんは無事だよ! だから心配しないで!!」 その声にエスメラルダは瞬の事をじっと見る。
「兄さん、きっと喜ぶよ。 今、ちょっと怪我をしているから、居なくならない様に見張っていてくれる?」 弟の頼みに彼女は茫然としながら頷く。
「一輝は無事なのね」 「大丈夫。案内するよ。 紫龍、エスメラルダさんを借りるね」 「おい瞬。何か用事があったのではないのか?」 「十二宮の方の様子を見に行こうと思ったけど、こっちの方が重要だよ」
そう言って瞬はエスメラルダの手を取ると、さっさと彼女を連れて行った。 「春麗さん。僕が彼女に付いていくから、心配しないで。 貴女はシオン様に会って、僕らがここに来た事情を説明して欲しい」
オルフェがその後を追う。 「春麗、まずは十二宮へ行こう」 紫龍の言葉に春麗は頷く。 その地の責任者に挨拶をしてエスメラルダと来た事を伝えなくては、自分がここに来た意味がない。
オルフェは春麗を、エスメラルダを託された者と扱ってくれているのである。 「紫龍、十二宮は遠いの?」 すると紫龍はいきなり春麗を抱き抱える。
「聖闘士の足なら直ぐだ。 貴鬼、行くぞ」 「うん」 そして三人は十二宮へと向かった。 |