妖気を消滅させながら、沙織はある事を考えていた。 多分、このまま自分は天上界へ戻ることになるだろう。 だが、どうしても知りたい事があった。
彼女は意を決して星華の方を向く。 「星華さん!」 いきなり名を呼ばれて、星華は何事かと驚いた。 「あの……、美穂さんの事覚えていますか!」
沙織は元親友の事が知りたくて、思いきって尋ねてみる。 尋ねられた方は一瞬、何の事だか判らなかったようだ。 「美穂さんって、星の子学園の?」
「そうです」 「よく覚えています」 星華は嬉しそうな表情をした。 「かくれんぼで星矢が鬼役になると、美穂ちゃんを一番先に見つけるから、美穂ちゃんはつまらないと言っていました」
「……そうですか……」 沙織は苦笑してしまう。 「星矢は美穂ちゃんが視野に居ないと落ち着かなくって……。 他の子の前じゃ、強がっていましたけどね。
その割に美穂ちゃんを泣かす事もあるから、一度だけ残酷な嘘をついた事があるんです」 「嘘?」 「星矢が美穂ちゃんの事泣かすから、美穂ちゃん居なくなっちゃったって。
そうしたら、絶対に探して謝るって言って利かないんですよ。 可哀相になって、美穂ちゃんが神父さまと買い物に行っている商店街まで連れて行きました」 話の内容が星矢寄りなのは仕方ないが、二人の関係が判って沙織は小さく笑った。
星華は自分の話が弟側になっている事に気付く。 「あっ、美穂ちゃんの事でしたね。 そう言えば美穂ちゃん。海の夢は見なくなったのかしら?」
星華の呟きに沙織はドキリとする。 「海の夢って何ですか?」 海という単語を言うだけで、緊張してしまう。 「美穂ちゃんは夜中に雨が降ると、海の夢を見て泣いていたんです。
どんな夢なのか知りませんが、海の中が悲しくて寂しいって言っていました。 時々、誰かが助けてくれると言っていましたが……」 沙織は星華に背を向けた。
これ以上話を聞いたら、涙が出そうだったから。 (海の中が悲しくて寂しい……) 誰だか知らないが、彼女を助けてくれる存在がいる事だけは嬉しい。
そして再び部屋に湧き出る妖気を消した時、ある事が急に思い出された。 『女神アテナ。俺、女神パラスを探します』
神殿に閉じこもっていた自分に、扉の向こうでそう叫んでいる少年の声。 その声は星矢に似ていなかったか? (そう言えば、パラスはペガサスは強くなるって、いつも言っていたわ……)
パラスと海辺で会っていると、迎えに来るのはカストールとポリュデウケース。そして時々、ペガサスの聖闘士の少年もいた。 そしてパラス側は女神テティスが迎えに来る事が多かった。
(あらっ??) 何かを思いだしかけた時、沙織は右足に痛みを感じた。 「あっ!」 浄化の術が沙織の右足に、模様を現し始めたのである。
その時エリスが部屋にやってきた。 |