エリスが絵梨衣を見つけたのは人馬宮の中。 だが、金色の円陣に絵梨衣は閉じ込められていた。 「女神様!」 信頼する存在の登場に、絵梨衣の表情が明るくなる。
「依代、怪我はないか」 「大丈夫です」 その割に先程の騒ぎで。服が所々破けてしまっている。 (怪我をしていないだけ良しとしなければならないが、キグナスにバレたら煩い事になるな)
エリスは溜息をつく。 「依代。さっきは助かった。 礼を言うが、あまり無茶な事はやるな」 「……すみません。 私、女神様を絶対に美穂に会わせたかったから、助けなきゃって……」
絵梨衣の返事にエリスの表情が固くなる。 「依代。その話は絶対にするな」 先程とはうって変わって冷酷な響きを含んだ彼女の言葉に、絵梨衣は背筋が寒くなった。
「女神様……」 「兄上はかなり見せたようだが、それならお前にも判るだろう。 私はあの子の前には立たない。会えばあの子は思い出してしまうかもしれないし、何より私が思い出させかねない。
だが、そうなれば今度こそあの子は殺される」 そしてエリスは、神々がその瞬間を待っているとも言った。 今、美穂が安全なのは、彼女がパラスである証拠が無いから。
神話の時代、パラスはアテナに匹敵する戦闘能力を持った女神だった。 これは競いの女神であるエリスが、彼女たちを丹精込めて育てたのだから仕方ない。 そして今、女神パラスは帰るべき場所を失った存在だった。
彼女をオリュンポス神族に敵対する勢力に取られれば、確実にアテナは苦戦を強いられる。 「依代。お前があの子の友達でいてくれればいい。 それだけで私は満足だ」
優しい時間と決別した女神は、また来ると言ってその場を去った。 黄金に光る円陣を、絵梨衣は寂しそうに見つめる。
そして部屋を出たエリスは、自分の右手を見た。
手は一瞬、色が透明になり元に戻る。 (上手く実体が維持できない。 依代を探す時に、自分自身に色々な術をかけているからな) だが、それを解く暇はない。
(浄化の術に巻き込まれるかもしれない……) エリスは口の端を歪めて笑った。 |