しかし、彼女たちは巫女役を行う事を了承したのである。 多少なりとも自分たちに出来る事をしたいと言うのが、その理由だった。 「行ってきます」
彼女たちはそう言って白羊宮の中へ入って行く。 星矢と氷河は見送る事しか出来ない。
双児宮では沙織が光の円陣の中に座っていた。
円陣から黒い靄が出て来ると、彼女はエリスより渡された棒でそれを打ち払う。靄は音を立てて消える。 それの繰り返しだった。 (これでは、大地の女神たちへの回復にまわれない……)
しかし、自分一人ではこれが限界だった。 エリスは手伝ってくれるが、あくまで手伝い。 自分と聖闘士たちとで何とかしないと、再び地上を狙う存在に侵攻の隙を与えてしまう。
守護神アテナは誰にも弱みを見せてはいけない。 だが無理をして双児宮にこれ以上負担をかけ、円陣が暴走したら女神たちに止めを刺しかねない。
ポリュデウケースは絶妙のバランスで、このシステムを作り上げていた。 (……ポリュデウケース……) 沙織は聖域創成の頃を思い出していた。
どうも記憶が所々切れているが、既にエリスからレーテーの水を飲ませた所為だと懺悔を聞かされている。 (初代双子座の黄金聖闘士……。 先生と共に聖域を作り上げ聖闘士たちを育てたから、聖域の事は何もかも知っていた筈だわ)
その時、沙織の脳裏に彼の顔が思い出された。 自分は彼に何かを言ったのである。 それに対して彼はとても驚いていた。 (何? 私は彼に何を言ったの??)
とても重要な事なのは判っていたが、どうしても思い出せない。 その時黒い靄が、沙織の背後に発生していた。 彼女はそれに気付いていない。
「油断をするな!」
エリスの一喝に沙織は、はっとする。 争いの女神は沙織の背後にあった黒い靄を、白い杖で粉砕した。 「今は余計な事を考えている暇は無い。
妖気を消滅させる事を考えろ」 「あっ、はい」 つい生徒の時の癖が戻り、エリスに睨まれる。 「わ、判っているわよ!」 沙織は慌てて口調を変えた。
しかし、争いの女神の背後に二人の女性を見つけて、沙織は目を見開く。 「絵梨衣さんに星華さん!」 何故、このような場所に二人がいるのか。
「どうして……」 エリスがうっかりしていたとは考えられないので、答えはただ一つ。 彼女が連れて来た事になる。 「この二人が協力を申し出てくれたので連れてきた。
いきなりだが、これから強制的に妖気をこの地の上空に引きずり出す」 「何で!」 最初の計画は自分の身体を媒体に、浄化の術を完成させる筈である。
「アテナ。浄化の術もペガサスの神聖衣を媒体に癒しの術を行ったのも、全ては大地の女神たちから犠牲を出さない為だ。 浄化の術が完成する前に女神たちが倒れていては、元も子もない。
この者たちが協力してくれるのだから、最も有効な手段に変更するべきだと思わないか?」 沙織は反論したかったが、出来なかった。 最優先されるのは大地の女神たちの安全。
その為ならば、あらゆる手段を行使する覚悟をしたばかりだからだ。 ところがエリスがとある円陣に近付いた時、赤い光が彼女に襲いかかったのである。
「女神様!」 咄嗟に絵梨衣が彼女を助けようと、突き飛ばした。 「絵梨衣さん!!」 その時、装飾品のもたらす結界が反発を起こし、赤い光が部屋中に溢れ返る。 |