「やはり覚えていたか。それは魂を封じる力を持ったものだ。
私もある技工に優れた巨人から、それを受け取った時は驚いたぞ。 とにかく、さっさと取り付けてくれ。 マスクは無いから意識までは封じられない。安心しろ」
氷河の警戒した顔をみて、エリスは笑う。 結局両手首と両足首、そして首飾りを絵梨衣は付ける事になった。 だが、その華美な装飾の割に重くはないらしい。
「女神様……」 「お前には苦労をかけたな。 もうすぐ何もかも終わる筈だ。 それまでは我慢してくれ」 エリスの言葉にシオンたちは驚く。
「何もかも終わるとは?」 シオンは何か不吉な予感がした。 エリスは静かに答える。 「アテナが今、この聖域の大地を浄化している。 あと半日もすればアテナの身体を媒体に、浄化の術は完成する。
聖戦も一応終わった事だし、アテナが天上界へ戻っても差し障りはあるまい」 争いの女神の告白に、その場にいた闘士たちは全員驚く。 「どういう事だ!」
一番近くにいたカノンが前に出る。 氷河も驚きながら、それでも他の闘士たちの勢いから絵梨衣を避難させた。 「エリス!詳しく教えろ」 シュラに至っては殺気だっている。
しかし、透明な壁が彼女との間にある為に、誰一人として彼女に近づけない。 「アテナは自分の勤めを全うしているだけだ」 「勤めだと……」 一応、シオンが彼らの行動を制する。
ここでエリスの機嫌を損ねるわけにはいかないからだ。 「女神エリス。詳しい事を教えて欲しい。 このままでは私でも聖闘士たちを押さえるのは難しくなる」
シオンの脅迫染みた言葉に、彼女は笑う。 「聖域の教皇の言葉とは思えないが、お前たちが私の言葉を全面的に信じるのなら話す。 だが、最初から疑っているのなら時間の無駄だ」
「判った。どのような話だとしても信じよう」 シオンの決断に、異を唱える者はいない。 「……ならば教えてやる。 この地はポリュデウケースの策略で、聖域創設時に贈られた大地の女神たちからの祝福の模様に手が加えられている。
その力ある模様が今や人間の持つ妖気を増幅して、逆に彼女たちを攻撃しているのだ。 多分、大地の眷属である精霊たちは、かなりのダメージを喰らっているだろう。
つまり、地上を守るべき聖域が、反対に大地を傷つけているのだ」 エリスの言葉に全員が強い衝撃を受けた。 |