暁の光に照らされる聖域はとても美しかった。 闘士たちには気温の変化はどうって事は無いが、星華と絵梨衣はそういうわけにはいかない。 魔鈴は氷河に絵梨衣を預けた後、二人の為に毛布を用意してくれた。
星華はそれにくるまりながら、この光景を見ている。 「奇麗ね……」 星華の呟きに星矢は姉の顔を見る。 「……そう?」 聖闘士となるべく訓練を受けていた頃、ここからの光景は見た事は無いが、暁の聖域はよく見ていた。
思い出すたびに冷や汗の出る訓練生時代である。 「ここは光が祝福する場所なのね……」 彼女はどこか懐かしそうな笑みを浮かべた。
柔らかい光を感じて、絵梨衣は目を開ける。 目の前には会いたくて仕方のなかった男性の顔。 氷河は彼女の上体をずっと抱き支えていた。 「絵梨衣……」
待ち望んだ彼女の目覚めに、氷河は思わずその柔らかい身体をきつく抱きしめる。 「氷河……さん」 先制を取られて絵梨衣は一瞬、何が起こったのか判らない。
氷河は他の人に聞かれないように、小さな声で言う。 「絵梨衣。絶対に君を守る。 だから、俺から離れないでくれ……」 どう考えても今回は後手にまわり過ぎた。
確かに彼女は争いの女神の依代だが、よもや女神を攻撃する為に彼女が利用されるとは思ってもみなかった。 彼女は怖かっただろうし、辛かっただろう。 今度の事で、彼女に愛想を尽かされるかもしれない。二度と会いたくないと言われるかもしれない。
だが何よりもその為に心が傷付き、恐怖に負けて自分の手の届かない世界に行かれたらどうしようかと思った。 すると彼女が氷河の背中に、自分の両手を回す。
彼女も氷河を抱きしめた。 「氷河さん……。氷河さん……」 絵梨衣は静かに泣きだす。 望みながらも諦めていた言葉を、ようやく聞く事が出来たのである。
その言葉で今までの辛かった気持ちは、彼女の中で静かな眠りにつこうとしていた。 |