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大地の女神 2

「……あれは……」
扉の向こうに居る者。
ラダマンティスはそれが誰なのか知っていた。
その姿を見たのは、ハインシュタイン城の一室に飾られている家族の肖像画の中。 彼女は幼いパンドラと共に描かれていた。
「ハインシュタイン夫人……」
ラダマンティスの呟きにパンドラは上体を起こそうとしたが、身体が重くて動かせない。
夫人はラダマンティスに会釈をするとパンドラに近付いた。
(邪悪な気配は感じられない……)
そしてラダマンティスはその場から動けなかった。
彼女は自分の娘の顔を覗き込む。
パンドラはじっと母親の顔を見つめると、再び涙を零す。
そして夫人は何かを話しはじめたのだが、ラダマンティスには彼女の声は聞こえない。 パンドラが嬉しそうに頷いているのを見て、母と娘の会話が行われているという事が判るのみである。
そして夫人の身体が、だんだんと薄くなってゆく。
この時ようやくパンドラが一言だけ言葉を発した。
「お母様……。弟を産んでくれて、ありがとう」
すると彼女はパンドラの額にキスをして、そのまま光となって消えた。
そして彼女は再び眠る。
だが、その寝顔は先程とは違って、とても穏やかだった。

彼はこの現象に驚くしかない。
夫人は何らかの敵の目眩ましと考えない事も無いが、今のハインシュタイン城には冥闘士たちがいる。
その部下たちに気付かれずに、この部屋まで来るのは考えられない事である。
そして夫人自身から邪気のようなものは最後まで感じられなかった。
身体が動くようになり、しばらくしてバレンタインが青ざめた表情で報告してきた。
先程、外へ出る為に破壊しようとした扉が、今度は粉砕されているというのだ。
(……夫人の見舞いが終わった後だから、外に出ても良いという事だな……)
パンドラの寝顔を見ながら、ラダマンティスは溜息をついた。
外を見ると仄かに明るくなっている。
夜が明けたのだ。