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慟泣 5

「怪我なんてさせてないから、安心しな」
魔鈴の言葉に氷河は頷くしか出来ない。 感謝の気持ちはあるのだが、どうしても言葉にならない。
「ありがとう……」
そう言うのが精一杯だった。
「バベルたちにも伝えておくよ」
彼女の言葉に氷河は少し表情が凍りついた。
そこへいきなりエリスが現れる。
「教皇はまだ来ないのか?」
彼女は周囲を見渡す。
一瞬、彼女と氷河の視線がぶつかったが、彼女はそのまま言葉を続けた。
「ペガサス。その神聖衣を貸せ!」
エリスは星矢に近付くと、簡単に神聖衣を外す。
「うわっ!」
星矢は階段に居たので、バランスを崩して落ちそうになった。慌てて星華が弟の身体を支える。
「薬草も持ってきたようだな。 これで間に合わないようなら、次はキグナスのを借りるぞ」
彼女はペガサスの神聖衣と薬草の入った袋を持つと、一方的にそう言って姿を消した。
十二宮で何が起こっているのか、彼らには見当がつかない。
その時、ようやくシオンとカノンがムウと一緒に十二宮へやってきた。

海将軍たちの帰還を老婦人はとても喜んで迎え入れてくれた。
アイザックが一緒だったが、彼女は気にしない。 すぐに奇麗に掃除された部屋へ案内してくれた。
そして彼らの為に茶の用意までしてくれたのである。
(何でだ??)
イオとアイザックは、この老婦人の心遣いに疑問を感じずにはいられない。
好意を疑うのは悲しい事だが、元々彼らと聖域は敵対関係である。素直に受け取りにくいものがあった。
その時、ジュリアンの意識が戻る。
海将軍たちは全員、緊張した。
だが、ジュリアンは目を開けない。
「ソレント……」
鱗衣をまとっていたが、ソレントは構わずにジュリアンの傍へ寄る。
「はい、ここにいます」
するとジュリアンはほんの少しだけ微笑んだ。
「……抗議してくるよ」
そう言って、彼は再び眠ってしまう。
「判りました。私もお供します」
ソレントの返事にイオとアイザックはぎょっとする。
「セイレーン。何を言ってるんだ!」
イオが彼の肩を掴む。
「ポセイドン様に反旗を翻すつもりか!!」
だが彼は即答する。
「そんなつもりはありません」
そう言いながらもその目は剣呑としていた。