「怪我なんてさせてないから、安心しな」
魔鈴の言葉に氷河は頷くしか出来ない。 感謝の気持ちはあるのだが、どうしても言葉にならない。 「ありがとう……」 そう言うのが精一杯だった。
「バベルたちにも伝えておくよ」 彼女の言葉に氷河は少し表情が凍りついた。 そこへいきなりエリスが現れる。 「教皇はまだ来ないのか?」
彼女は周囲を見渡す。 一瞬、彼女と氷河の視線がぶつかったが、彼女はそのまま言葉を続けた。 「ペガサス。その神聖衣を貸せ!」
エリスは星矢に近付くと、簡単に神聖衣を外す。 「うわっ!」 星矢は階段に居たので、バランスを崩して落ちそうになった。慌てて星華が弟の身体を支える。
「薬草も持ってきたようだな。 これで間に合わないようなら、次はキグナスのを借りるぞ」 彼女はペガサスの神聖衣と薬草の入った袋を持つと、一方的にそう言って姿を消した。
十二宮で何が起こっているのか、彼らには見当がつかない。 その時、ようやくシオンとカノンがムウと一緒に十二宮へやってきた。
海将軍たちの帰還を老婦人はとても喜んで迎え入れてくれた。
アイザックが一緒だったが、彼女は気にしない。 すぐに奇麗に掃除された部屋へ案内してくれた。 そして彼らの為に茶の用意までしてくれたのである。
(何でだ??) イオとアイザックは、この老婦人の心遣いに疑問を感じずにはいられない。 好意を疑うのは悲しい事だが、元々彼らと聖域は敵対関係である。素直に受け取りにくいものがあった。
その時、ジュリアンの意識が戻る。 海将軍たちは全員、緊張した。 だが、ジュリアンは目を開けない。 「ソレント……」 鱗衣をまとっていたが、ソレントは構わずにジュリアンの傍へ寄る。
「はい、ここにいます」 するとジュリアンはほんの少しだけ微笑んだ。 「……抗議してくるよ」 そう言って、彼は再び眠ってしまう。
「判りました。私もお供します」 ソレントの返事にイオとアイザックはぎょっとする。 「セイレーン。何を言ってるんだ!」 イオが彼の肩を掴む。
「ポセイドン様に反旗を翻すつもりか!!」 だが彼は即答する。 「そんなつもりはありません」 そう言いながらもその目は剣呑としていた。
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