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慟泣 4

社殿の中はメチャメチャに破壊されており、所々に血痕が飛び散っていた。
氷河は彼女の姿を探していながら、ここにはいない事を願う。
(頼む……。無事で居てくれ……)
だが、あてもなく恋人の姿を探すのは気が狂いそうなほど辛い。
(俺は彼女を守れなかったのか……)
絶望感が心を占めようとした時、彼の背後で知っている人物の声がした。
「氷河!」
瞬がダイダロスと社殿へやって来たのである。
「……瞬……」
「絵梨衣さんなら、魔鈴さんたちが守ってくれたよ」
この言葉に氷河はその場に片膝をついた。
ダイダロスはとある部屋へ入り、瞬は氷河の方へ駆け寄った。
「今も絵梨衣さんの傍には魔鈴さんや星華さんが居てくれている。
十二宮前の広場に居るから、その前にこっちを手伝って!」
瞬は氷河の腕を掴むと、そのままダイダロスの入った部屋へ連れていった。
「どうしたんだ!」
「沙織さんから社殿で保管されている薬草や香草を持ってきてくれって、言われているんだ。
ダイダロス先生しか見分けがつかないから、僕らは荷物持ちだよ」
そして棚の中から幾つかの袋とビンが取り出される。
「とにかく社殿内の在庫はこれだけのようだ。 大切に運んでくれ。
私はあと幾つか頼まれているものを探す」
ダイダロスは社殿の奥へと進む。 瞬と氷河は急いで十二宮へ向かった。

「星矢が無事で良かった……」
姉の星華に泣かれて、星矢はどう慰めて良いのか判らない。
今、十二宮は白羊宮から立入禁止になっており、聖闘士たちは広場で事の成り行きを見守っていた。
十二宮と神殿が淡い光に包まれている。
星矢は沙織を守る事ばかり考えていたが、いざ戦闘状態が終わってみると聖域の町も攻撃されており、姉も巻き込まれたと聞かされた。
(何やってるんだよ、俺……)
師匠の魔鈴や白銀聖闘士たちが姉を助けてくれなかったら、そのまま永遠の別れになる所だったのだ。
自分の未熟さを痛感せずにはいられない。
「やっぱり傷薬をもらって来るわ!」
階段に座っていた星華が立ち上がろうとするのを、星矢が慌てて止める。
いくら敵が去ったとはいえ、聖域の町は混乱状態なのである。そんな場所に星華を歩かせたくない。
これには魔鈴も同意した。 相手の隙をついた攻撃が最も効果的なのは、昔も今も変わらない。
だからこそ他の白銀聖闘士たちは、再び聖域の警護に戻ったのである。
「ムウのやつ。遅いなぁ……」
デスマスクが隣にいるシュラに話しかけた。 エリスから教皇を連れて来るよう言われたので、弟子である彼が五老峰に向かったのである。
そして瞬と氷河が荷物を持ってやってきた。
「絵梨衣!」
氷河は持っていた荷物を星矢に無理矢理渡すと、魔鈴に上体を預けている絵梨衣に近付いた。
彼女は静かに眠っている。