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慟泣 3

聖域に夜明けがやってくる。
それと同時に十二宮が全て光り輝いた時、黒い靄は次々と雑兵や人々の身体から抜け出した。
そして聖域を守っていた多くの闘士達は、一連の騒ぎが一応終わった事を知る。
海に属する青年たちの無事を祈っていた老婦人は、恐る恐る外へ出た。
そして彼女は外の混乱が収まったのを知ると、戻って来るであろう青年たちの為に、暖かい食事と眠る場所を用意しはじめた。

眩しいまでの光の洪水。
その中で沙織は目を覚ました。
疲労感で身体がなんとなく重い。
(……)
部屋には一人の女神が立っていた。
「起きたか。気分はどうだ」
優しい口調に沙織は涙が溢れてくる。
「……」
自分たちの為に孤独な闘いをし続けた女神。 沙織は彼女に駆け寄ると、思いっきり抱きついた。
「先生……」
だが、沙織がそう言った瞬間、エリスは彼女の頭を軽く叩いた。
「アテナ。私はもう先生ではない。 二度とそう呼ぶな」
沙織は驚いてエリスの顔を見る。
「どうしてですか……」
「私は争いの女神だ。 地上を護る女神が争いの女神を慕ってどうする。
それに他の神々にお前の記憶が戻った事が発覚すると面倒だ。
今までどおり私を一介の女神として扱え」
しかし、沙織は承知出来ずに首を横に振る。
「どうしてですか! 先生は何も悪くないのに……」
「アテナ。あれが事故として処理されたからこそ、エリーニュスたちも海の女神たちも沈黙を守っている。
お前が迂闊に動けば、今度は彼女たちが自分の命をかけて無謀とも言うべき闘いに身を投じるだろう。
そして聖闘士たちが無駄な血を流す。
今は待て。
どんなに辛くても、今は自分の使命を全うしろ」
絶大な信頼を寄せる女神の言葉に、沙織は彼女の顔を見た。
そして泣きながら頷く。
地上が混乱すれば、聖闘士たちは争いを起こした女神たちを追い詰め捕らえなくてはならない。
愛情深い海の女神たちに危害を加えれば、いくら地上を護る為とはいえ聖闘士たちも只ではすまない。
人間たちだけが無駄に死んでゆく闘いを強いられてしまうのだ。
「それからアテナ。 今から私の話を落ち着いて聞くんだ」
エリスは彼女を抱きしめながら今の聖域に起こっている事を、静かに話しはじめた。
双児宮の壁には、次々と光の円陣が現れては消えていった。

破壊の爪痕の残る社殿を見た時、氷河は身体から力が抜けるかと思った。
「絵梨衣!」
氷河は社殿へ駆け込む。 だが、社殿の中に人の気配は感じられなかった。
「これは酷い……」
アイザックは辺りを見回す。 聖域の町は騒然としていた。
その時、彼は仲間の姿を見つけた。
「セイレーン、スキュラ」
駆け寄ってみるとイオがジュリアンを背負っている。
「何があったんだ!」
「双子座が攻撃を仕掛けてきたんだ。 ジュリアン様は今、眠っている。
やはりポセイドン様が中にいた」
そう言いながらソレントは持っていたフルートを固く握った。