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慟泣 1

可愛がっていた教え子を神々の策謀で失った『競い』の女神。
しかも、被害者の子は最初から居なかった者にされてしまう。
そして彼女は加害者となったもう一人の教え子に、忘却という名の水を飲ませる。
親友を傷つけたゆえに、その子の心が全てを拒絶してしまったから。
その子は何も見ない。何も反応しない。
唯一、競いの女神にだけは反応を示す。
信頼関係だけは教え子の中に残っていたのかもしれない。
しかし、その子の心を取り戻す為に、女神は忘却の水を使った。
使えば今度は自分との事を忘れてしまうのだが、それで教え子がもう一度自分を取り戻してくれるのならばと、彼女は泉の水を飲ませる。
教え子は何かを察して最初は口にしなかったが、彼女はそんな教え子を騙した。
そして女神は、自らその力の性質を変えてしまう。
競いから争いへと……。

全ての者たちに災いを与える存在に……。


自分と関わりの深いその女神の悲しい記憶は、絵梨衣の心を締めつける。
今はただ、修羅の道を選んだ女神の為に泣く事しか出来ない。


女神は決断する。
神々に対しての報復を……。
だからこそ嫌悪されようとも争いの女神であり続けた。
平和な時代の訪れを拒否した神々を許すつもりはない。
ならば戦乱の時代を過ごしてもらおう。
神々の罪を裁いてくれる存在が現れる、その日まで……。


(子供たちを傷つけられたら、平気でなんていられない)
絵梨衣は星の子学園で世話をしている子たちの事を思い出した。
子供たちが幸せに過ごせますように。
そう祈らない日はない。
(あの女神様だって、そう思いながら育てていた筈よ……)
競いの女神の悔しさを感じて、絵梨衣は涙が止まらない。
ヒュプノスはそんな彼女の様子を、じっと見ていた。