沙織は再び親友を抱き起こしていた。 それが夢なのだという事はなんとなく判っていたが、先程のように親友の身体が崩れる気配はない。 何故なら彼女の身体は傷ついてはいないのだから。
「パラス……、起きて……」 もう一度、彼女の声が聞きたい沙織は、静かに呼びかける。 「お願い、起きて」 神話時代から離ればなれだった親友。
楽しかった時の事が思い出されて、不意に涙が零れた。 すると、その涙が二人のいる場所の地面を水面へと変化させる。水面は輝きながら世界を照らし始めた。
その光は眠る様な表情をしている海皇の孫娘の顔から暗い影を拭いはじめた。 頬に赤みが戻りつつある。 「えっ!?」 この時、沙織は自分が抱えている少女に似た人を思い出した。
(まさか……) 沙織はじっと彼女の変化を見つめる。 すると今までぴくりとも動かなかった少女の瞼が少しだけ動いた。 そして目が開こうとしている。
沙織は意を決して彼女に呼びかけた。 女神の時の名前ではない。 人間の時の名前。 幾度か自分も呼んだことのある名前である。
「美穂さん!」
少女は薄目を開けながら唇を動かした。 「さ、沙織さん?」 沙織は泣きながら頷いた。 |