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夜明け 3

『おかしい……』
異空間でヒュプノスは絵梨衣に術を何度もかけているのだが、その術が上手く作用しないのである。
『娘、何を拒絶しているのだ。
このままなら記憶を全て消す方法で、お前を悪夢から解放させるぞ』
ヒュプノスは脅迫染みた事を言うが、絵梨衣にも原因が判らない。
彼女は目に涙を溜めながら首を横に振った。
「お嬢さん。何か怖い事でもあるのですか?」
ナターシャが優しく問いかける。
『お前は、元に戻る事を怖がっている様に思える。
キグナスの所に戻りたくないのなら、そう言え』
すると絵梨衣は俯いた。
「違います!
ただ……、私が氷河さんの傍にいて良いのかなって……」
自分の事で彼に傷を負わせた事のある過去が、彼女の心を不安定にしていたのである。
ナターシャは絵梨衣の肩を抱くと、頭を撫でながら話しかけた。
「……絵梨衣さん。 母親の私が言うのも何ですが、氷河はそれくらいで負ける子ではありません。
あの子を信じてあげて下さい」
「小母様……」
絵梨衣の言葉に、ナターシャは寂しそうな顔をする。
「絵梨衣さんは氷河の事、友達として好きなのかしら?」
ナターシャの謎かけに、絵梨衣は首を傾げる。
「そんな……。 と、友達としてじゃ……」
しどろもどろに答えた後、恋人の母親が何を言いたかったのか、彼女は気付く。
「あの……」
絵梨衣は本当に口にしていいのか戸惑う。
そして自分の中で妥協点として、小さく声に出した。
……おかあさんって呼んでいいのですか?
自分のあまりの図々しさに、絵梨衣は恥ずかしくなった。
ナターシャは彼女の髪に触れる。
「さっきは、そう呼んでくれたわ」
それは意識が朦朧としていたからである。
「絵梨衣さん?」
ナターシャの笑みは、限りなく優しい。
絵梨衣の目から涙が零れる。
「おかあ……さん。おかあさん」
ナターシャが自分にしてくれた事。それだけでも、絵梨衣にとって彼女は母親以上の女性だった。
そしてナターシャは自分にしがみつく少女を優しく抱いた。