急に目の前にエリスが現れた時、金牛宮の主は別の意味で驚いた。 「牡牛座、もうすぐここへ双子座が来る。 だが、倒そうとするな。足止めだけしてくれ。
ある男をここへ送る」 彼女はそれだけ言うと、早足で双児宮へと向かう。 数秒後、女神の気配は消え、白羊宮の方向から何かが近付いて来た。
(ある男?) しかし、これより上にいるのは星矢たちだけである。 彼はエリスの言葉に疑問を感じながらも、敵を迎える為に警戒態勢に入った。
双児宮にて争いの女神は少女の泣き声を耳にする。 入り口では一人の聖闘士が倒れている。 彼女はそれを無視して入り込むと、双児宮の壁には何かで切り裂かれたような跡と水滴が付いていた。
(ポリュデウケースめ……。女神たちが施した秘術に手を加えたな) 彼女は奥へと歩みを進める。 すると廊下では一輝、奥の部屋では星矢と瞬が気を失っていた。
エリスは彼らも無視すると声の主の元へと辿り着いたのである。
声の主は沙織。 彼女はシードラゴンの鱗衣にしがみついて泣いている。
「ここにいたのか」 エリスは沙織の背後に立つ。 「アテナ、私の話を聞け」 しかし、彼女はエリスの方を向こうとしない。 争いの女神は静かに沙織の傍にしゃがむと、いきなり彼女の顔を自分の方へ無理矢理向けて怒鳴った。
「女神アテナ!パラスは生きている。 いつまで大神ゼウスと海皇ポセイドンに騙され続けるつもりだ!!」 沙織はぼんやりとエリスの顔を見ていたが、徐々にその瞳に意志の光が宿る。
そしてその声の大きさゆえか、星矢と瞬が意識を取り戻した。 一輝も壁を伝いながら、部屋の様子を見に来た。 「沙織さん……」 星矢はゆっくりと上体を起こす。
しかし、エリスは構わずに怒鳴っていた。 「あれは最初から仕組まれていた。 何故ならパラスはお前の味方になると海皇に言っていた。
お前たちが手を組めば地上は平和な時代を迎えるが、それは大神や海皇がその地位を失う事を意味する。 だからお前がパラスを傷付ける事によって、二度と自分たちの地位を脅かす者が出ない様に謀られたんだ」
星矢はエリスの言葉に、夢の中で見た女神ディケーの言葉を思い出す。 『あの方を守る事はアテナを守る事』
(あの聖闘士が見つけたかったのは、その人なのか?) 自分の中で何かが蠢く。 そして今まで沈黙していた沙織が、ゆっくりと口を開いた。 |