「……なんだ、海皇と喧嘩の真っ最中か」
白い杖を持ったエリスは、面倒くさそうに腕を組んだ。 緊張感のない物言いである。 『エリスか……』 「海皇。 自分の孫娘は抹殺したくせに、大地の女神たちは依代の身を犠牲にしても助けるんだな……」
彼女は寂しそうに笑う。 ポセイドンは沈黙した。 (エリスは何を言っているんだ? 孫娘?依代の身を犠牲にって……) ソレントはこの会話にパニックを起こしてしまう。
「依代を見捨てたのか……」 ポリュデウケースは女神として現れたエリスを見て驚く。 彼女は挑発的な高笑いをした。 「攻撃材料にしておいて、何を言うか。
お前には酷い目に遭わされたからな。 海皇との喧嘩が終わったら、今度は私と話をつけようじゃないか」 彼女の申し出に、闘士たちの方が言葉を失った。
(何言ってるんだ!この女神は……) 全員が心の中でそう叫ぶ。 その時、双児宮から青い光が天と聖域を照らした。 「どうやらアテナは目覚めたようだ。
ポリュデウケース。最初の嫌がらせとして、ここの円陣を無効にさせてもらうぞ」 彼女が白い杖を高く掲げた瞬間、緊張し続けた空間が爆発を起こす。
闘士達は弾き飛ばされ、ジュリアンの身体も階段下へ飛ばされた。 そして敵の姿は何処にも見えない。 「どうやらポリュデウケースは神殿へ向かったようだな」
エリスは悠々とした足どりで白羊宮へと歩きはじめた。 その姿はいきなり透明な存在ではなく、実体を伴っている。 「エリス。貴様……」 デスマスクは傷ついた身体で立ち上がる。
「お前たちはここに居ろ。 ポリュデウケースを倒すのは、お前たちの役目ではない」 「何だと……」 「心配するな。今のアテナの傍にはアレがある」
そして彼女は闘士たちの前から姿を消した。
「ジュリアン様!」 空間の爆発が起こった時、ソレントは彼の身体を捕らえ損なう。
真っ青になって階段を駆け降りると、ジュリアンはアステリオンが抱き止めて無事だった。 ジュリアンは気を失っている。 「ご無事で良かった……」
そう呟いた時、ソレントはようやく冷静さを取り戻した。 (ポセイドン様はジュリアン様を使い捨てようとしていたのか!) ソレントの胸の内に、言い知れぬ怒りが沸き起こった。
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