沙織は夢を見ていた。それは悲しい場面。 真っ赤な鎧から血を流して倒れる女性。 (エウリュディケー!) 沙織は彼女に手を伸ばそうとした時、その女性が審判役をしてくれた精霊でなくなったことに気がついた。
赤い影は自分と同じくらいの少女へと変化したのである。 彼女はこの少女に見覚えがあった。 それは遥か昔、自分が聖域に初めて降臨した直後に出来た親友。海皇の孫娘で、後に冥妃となったペルセポネと一緒に一人の女神を師としていた。
(あの声は……、彼女の声だったんだわ……) 試練の最中に、自分の脳裏に蘇った優しい声。 (何故、忘れてしまったの……。 何故、こんな残酷なことを忘れてしまったの!)
少女は大地にその血を流し、倒れている。 その鎧は剣で打ち砕かれており、それが致命傷になっていた。 (私が彼女を殺したんだわ!) 沙織は彼女を抱き上げる。
懐かしい友は目を開けない。 (剣の練習中に……、私はパラスを殺してしまった……) 気付くと沙織の手は真っ赤に染まっていた。 「パラス……、ごめんなさい……」
(傷つけたことも、忘れてしまったことも……) 彼女は自分の身体が血で汚れるのも構わずに、物言わぬ友を抱きしめて大粒の涙を零した。 青い光が親友の身体を切り裂く。
沙織は自分の腕の中で崩れていく親友の亡骸を見て絶叫した。 |