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分岐点 5

一人の男が十二宮へと続く階段を、ゆっくりと上っていた。
彼は何処か楽しそうに微笑んでいる。
(亡者共の妖気が聖域の大地を汚している。
もうここは滅びるだろう。デスクィーン島のように……。
大地の女神たちはこの妖気に耐えられない)
彼は自分の望みが成し遂げられようとしていることに、喜びを感じずにはいられなかった。
(あの娘は心配するほどの者ではなかったらしい。
夜が明ける頃には、大地はその生命力を失い草木は枯れてゆく)
最初は目的があった筈なのに、いつしか彼は滅びというものに酔っていた。
彼自身判っていたのだが、その甘美さゆえに自制が利かない。
(アテナ……。もうすぐ、何もかも終わります)
そして彼は三人の黄金聖闘士たちのいる十二宮前の広場へとやって来たのだった。


金牛宮では、アルデバランたちが外の異変に気が付く。
「ダイダロス。アテナを連れて神殿へ急げ。 お前たちも一緒に行くんだ」
彼の言葉に、ダイダロスは頷く。
「アルデバラン。あなたは?」
瞬の言葉にアルデバランは優しい笑みを浮かべた。
「俺はこの宮の守護者だ。ここから離れる訳にはいかない」
「敵が来ているのか!」
星矢が外へ行こうとするのを、アルデバランが止める。
「お前たちは最後までアテナの傍にいるんだ」
「しかし、……」
ダイダロスが眠っている沙織を抱き上げてやってくる。
「行け。我々の今の使命はアテナをお護りすることだ」
「でも……」
するとダイダロスが星矢の前に立った。
「ペガサス。我々は正義を守り、その守護者であるアテナを守る聖闘士だ。
血に飢えて敵を望むのか?
今の身体では無駄死にするだけだ」
その諭すような言葉には、星矢を叱る様子は見られない。
「……わかった」
身体の回復していない自分が闘っても勝てないのは判っていたが、それでも敵を倒す事がアテナを守る事だと思っていた。
しかし、そのような事をすれば、辛い試練を成し遂げたアテナの努力を無駄にする。
自分から死に急ぐ真似はするなと、暗にダイダロスは言っているのである。
「早くいけ!」
アルデバランに言われて、ダイダロスは急いで部屋から出た。
星矢と瞬がその後に続く。一輝も駆けだした。
(時間が欲しかったな……)
アルデバランはそう言って金牛宮の入り口の前に立った。