聖域から少し外れた所にジュリアンたちが宿泊している家があった。 だが、外の混乱している様子は手にとるように判る。 「何かあったのかな?」 家の奥でジュリアンは外の様子を頻りに気にするが、窓を開けようとはしない。
「こういう事は、ここでは頻繁なのかな?」 ジュリアンの質問にイオは答えられない。 その時、別の部屋で女性の悲鳴が聞こえた。 反射的にイオは部屋から飛び出し、ソレントがドアを閉じる。
(鱗衣を装着さえ出来れば!) しかし、ジュリアンの前で海将軍に戻る事は出来ない。 しばらくしてイオが腕に怪我をした老婦人を連れてきた。
「大丈夫ですか!」 老婦人は申し訳なさそうに頷く。 「出入り口は一応テーブルとかで塞いできた」 するとジュリアンが老婦人に近付く。
「怪我を見せてみろ」 その言葉づかいにソレントとイオは驚く。 老婦人は客であるジュリアンたちを不安にさせている事を深く詫びて、怪我を見せようとしない。
「お前は善き婦人だ。お前の手は人を助ける手だろう」 ジュリアンはそう言って左手で彼女の手を掴むと、自分の右手を傷に近づける。 ダイダロスと同じように、青い火花が散ると彼女の腕の傷は綺麗に治った。
「ポセイドン様……」 ソレントは絶句してしまう。 老婦人は驚きはしたが、直ぐに感謝の意を述べた。 彼女には海皇や海将軍は敵という認識がないらしい。
「スキュラ。セイレーン。 アテナに会いに行くぞ」 ポセイドンの言葉に、二人は驚く。 海皇は二人の返事を聞く気はない。 既に部屋から出ようとしていた。
「行くしかあるまい。セイレーン、装着して追いかけて来い」 イオはそう言って部屋から出た。 ソレントは老婦人に鱗衣のある隣の部屋の鍵を渡して貰うと、彼女に戸締りを注意して混乱に支配されている聖域中心部へと駆けて行った。
|