「オ、オルフェ……、貴様……」
すると春麗を紫龍に渡して、身が軽くなったシオンがカノンに近づく。 この様な現場を少女たちに見せたくなかったので、紫龍は直ぐに彼女たちを家の中へ連れて行った。 貴鬼もその後をついてゆく。
「教皇!」 「オルフェは私の命令に従っただけだ。 カノン。お前があれと対決しては、聖域が崩壊する。 大人しくここに居るんだ」
「どういう事だ!」 弦はもがいたところで緩む訳も無く、カノンを縛りつけていた。 「さっきも言っただろう。 お前があれを捕らえるのを止めて倒すと判断した時は、邪魔をすると」
「あれは俺の兄だ。他の奴らには任せない!」 するとシオンは背後からカノンの首を自分の腕で抱えた。 カノンはシオンから逃れられない。 「よく聞け、カノン。我々は女神アテナの聖闘士だ。
その宿命は星と神々の影響を受ける。 そしてこの世の邪悪から地上を守るべく力を振るう我々が、唯一行ってはならないのが肉親殺し。 アテナが邪悪と闘いながらも、地上を狙う海王や冥王を滅ぼせないのはその為だ。
この禁を冒した者には、エリーニュスたちがタルタロスよりその罪を裁きにやってくる」 「エリーニュスだと……」 「そうだ。天上の神々がその存在を敬い、決して逆らわない、大地の道理を守護する女神たちだ。
これは絶対的な事。アテナと言えども従わざるを得ない掟を、聖闘士が無視する事は出来ない。 それ故、我々は肉親が邪悪の手先となった場合、仲間にその裁きを委ねなくてはならないのだ」
カノンはシオンから逃れようと暴れるのを止めた。 「もし、俺がサガを倒したらどうなるんだ」 シオンは彼の態度が変わったので、拘束する事を止める。
「聖闘士たち全員を道連れにして聖域はこの世から消える。 もう一度、新しく聖域を造り直す為に、禁忌を冒した過去に関わる者は全て抹殺されるだろう」
スニオン岬で酷い目に遭った事のあるカノンとしては納得しかねる話だが、真実であった場合の代償が大きすぎる。 そして今のサガに足止めや時間稼ぎと言う生ぬるい事をしては、犠牲者が増えるだけで何の解決にもならない。
カノンはしばらく思い詰めたような表情で沈黙する。 そして彼の出した結論は、今は教皇に従うというものだった。 そう、今だけは……。
「……判った……。 それなら俺はサガには関わらない。 だが自由に動かせてもらう。構わないだろう」 「良かろう。サガに関する事以外では制限はしない」
しかし、カノンはオルフェの刺すような視線を感じて、テティスを探すには彼と話をつけてからだと考えた。 先程よりも身体に絡まっている弦がきつくなったような気がしたからである。
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