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「どうやら終わったようだな」
五老峰ではオルフェの言葉に、紫龍は戦闘のあった方角を向く。 先程まで激しいまでの小宇宙のぶつかり合いも、今は何事もなかったかのように静まり返っている。 カノンや教皇シオンの小宇宙が消滅した様子は感じられなかったが、敵の方も倒されたという気配がなかった。 あの二人が敵に逃げられるという失態を犯したとも思えない。 紫龍は何が起こったのか判らず、隣にいる春麗を見た。 何かあれば彼女をこの場から真っ先に、逃がしたい。 その時、彼は背後に殺気を感じた。 「オルフェ、童虎の弟子。ご苦労だったな」 そう言いながらも、シオンは春麗から紫龍を引き離す。 その傍には傷だらけのカノンが立っていた。 春麗は女性の姿を探したが、ここら辺一帯に女性の気配は無かったし、戦闘にも巻き込まれていないとシオンに言われる。 では、何処へ消えたのか。 彼女は不意に夢の中で出会ったテティスを思い出した。 貴鬼は元海闘士である彼の姿を見て、動揺してはいけないと自分に念じる。 テティスの事は聖域には知られていないし、春麗はあの精霊がテティスという名前である事も海闘士である事も知らない。 自分が沈黙を守れば、誰にも判らないのだ。 だが、秘密を抱えると言う事の息苦しさを感じない訳ではない。 もしかすると大滝から海へ戻ったのではないかと考えているのだが、それを確認する事は彼女が海闘士のテティスである事を証明する事に他ならない。 (エウリュディケーさん、早く来てくれないかな……) 貴鬼は大きく深呼吸した。 「カノン。あいつは!」 紫龍は驚きと不満を抱えながらも、カノンに肩を貸そうとする。 だか、彼はそれを断ると、思いっきりシオンを睨み付けた。 「そこのジジイがスターダストレボリューションを使うから、逃げられた」 カノンは忌ま忌ましげにシオンの事を睨み付ける。 しかし、彼は平然としていた。 「仕方あるまい。お前があやつを倒そうとするのなら、引き離さなければならない。 それからその様な言葉づかいは二度とするな」 何が仕方ないだとカノンは文句を言いたかったが、既にシオンの関心は春麗の方に向いていた。 彼は少女の両肩をその手で優しく掴んだ。 「春麗。随分大きくなったな」 シオンはとても嬉しそうに微笑む。 彼女の方は、いったい誰なのだろうかと戸惑っている。 「あの……、貴方は?」 「私はお前の養父である童虎の知人のシオンだ。 牡羊座のムウの師匠でもある」 その言葉に貴鬼が驚きの声を上げる。 「ムウ様のお師匠様?」 そう言ったまま、貴鬼は絶句してしまう。 (随分、若く見える人だなぁ……) 貴鬼は首を傾げる。 ムウは昔話をするような事は、あまりしなかったが、それでも言葉の端々に出てくる師匠だった人のイメージは老人だった。 変な話、他三人の聖闘士がシオンの発言を訂正するのではないかと貴鬼は思ったのだが、誰も何も言わない。 それでシオンの言っている事は本当なのだと彼は判断した。 本人が聞いたら激怒しそうな話である。 |