INDEX

潜在 3

十二宮前の広場では、三人の黄金聖闘士が警戒を強めていた。
「ところでシュラ。あいつの名前は何だと思う」
デスマスクに問われて、シュラは少しだけ首を傾げた。
「どうしたんですか?」
二人の謎な会話にムウも関わる。
「……いや、デスクィーン島であの男と闘った時、奴は名を呼ばれる事を嫌がっていたんだ」
シュラは腕を組んだ。
激しい嫌悪とも言うべき絶叫。それは悲鳴にも似ていた。
その名前にどんな意味があるのか。
「名前ですか……。単純に双子座ならカストールとポリュデウケースですね」
ムウの言葉に他の二人は笑う。
「神話に出てくる本物の双子座の名前だな。
カストールは人間だったらしいが、ポリュデウケースは神だって話だぞ……」
だが、デスマスクは自分の言葉に厳しい顔つきになった。
自分が感じた不死の気配は、神ゆえのものなのかと思えたからである。
そんな彼の様子に、シュラとムウは彼が考えている事に気がついた。
「……まさかサガの中に潜んでいたのは、神の方だというのか?」
シュラがそう言った瞬間、大地から何かエネルギーの流れが沸き上がった。
地震とは違い揺れは無いが、明らかに風のような気の流れが起こる。
そして地面が所々黒ずんできた。
「敵襲でしょうか」
その時、雑兵の一人が三人の元へ駆け込んできた。
聖域の町で雑兵たちが何かに取り憑かれているかのように、いきなり暴れ出したと言う。
そんな彼も足元から発生した黒い煙を吸って、いきなり武器をシュラに突きつけようとする。
瞬時にシュラは雑兵を叩きのめした。
「この期に乗じて、あいつが乗り込むと思うか?」
デスマスクは町の方を見た。 自分たちはこの場を離れる訳にはいかない。
だが、このままでは聖域の町は血の海になってしまうだろう。
「エリスの依代の少女だけでも、無事かどうか確認しないと!」
ムウは意識を集中して社殿の中の様子を見ようとしたが、どういうわけだか中の様子が判らない。
「どうだ。何か判ったか?」
シュラの問いかけに、彼は首を横に振った。
「邪魔が入って、よく見えません。 何か特別な力が働いているようです。
誰も呼びかけに応じません」
ムウは自分の足元から立ち昇る黒い煙を見た。
それは黄金聖衣に触れると、小さな音を立てて消える。
「町の警護をしている聖闘士たちに賭けるしかないのか……」
しかし、雑兵の数の方が圧倒的に多い。
争いの女神の依代である少女の命は風前の灯火のように思えた。